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Extraordinary Records

Extraordinary Records

レコード盤そのものを美的に鑑賞する一冊

09 8/10 UPDATE

レコジャケを集めた本なら無数にあるが、これはレコードの「盤そのもの」を美的に観賞するための一冊。ありそうで、あったわけがない──そんな趣旨のもと蒐集された四百枚の「ヴァイナル」が、美麗写真にて収録されているのが本書だ。

最大の特徴は、なんといっても「音の優先順位」が低いということ。「レアな音」や「いいトラック」が収録されているから──この四百枚が選ばれた、わけではない。最も重用視されているのは、まず「ヴァイナル」。それが「物体」として、「美しい」かどうか。「製品コピー」として、「レア」かどうか。そういった観点からチョイスされた、カラー盤、シェイプ盤、ピクチャー盤などが並ぶ。ページをめくりながら、我々は「物体として」のレコードの像を観賞することになる。真っ正面から撮影された、きれいな円盤状のヴァイナル。その紙レーベルのデザインと、盤面とのコントラスト。時折挿入されるスリーヴの現物写真がアクセントになって、ページを繰る手が止まらない。そして我々は気づく。「レコード」というものは、音が聞こえようが、聞こえなかろうが、それそのものの存在として、とても美しいものだったのだ、と。

いま現在、音楽の記録方法、流通方法は、「モノ」を介さないデジタル・データによるものが主流になりつつある。そんな風潮へのカウンターとして、本書は企画されたのだろう。僕自身も──まあ、これは年寄りだからということなのだろうが──「盤がない音」というものには、どうも馴染めない。データでいいのだったら、わざわざそんなものを購入したり、記録媒体に保存したりしなくたって、「脳内コピー」でいいんじゃないか?とヤケクソ気味に思う。いい曲なら、すぐに憶えられるはずだから、どこかで試聴して、それであとは、脳内で思い出してればいいんじゃないか?──というのが極論だということは、まあわかってるんですが。しかし、ここに収録された「音が聞こえてこない」ヴァイナルの写真の数々のほうが、「盤がない」音源データより、ずっと貴重ななにかを──なにか、形のないものを、こちらに伝えてくれているように思える。

序文をミュンヘン・サウンドの王、ジョルジョ・モルダー翁が執筆。ベネトンのカラーズ・マガジンとタッシェン社との合同企画による労作です。

Text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

『Extraordinary Records』
(TASCHEN)