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ボディショッピング 血と肉の経済

ボディショッピング 血と肉の経済

人体パーツ売買の現状に警鐘を鳴らすルポルタージュ

09 8/20 UPDATE

読んですぐ慄然、そして真っ暗な気持ちになること間違いなしの恐怖の一冊──といってもこれは、エンターテイメントとしてのホラー小説などではない。「現実社会」の暗部を気鋭のジャーナリストが炙り出した、告発と問題提起のルポルタージュが本作。そのテーマは、「人間の体は、現在、どこまで売買されているのか?」そして「どこまで売買可能なのか?」。

たとえば臓器、血液、細胞、卵子、精子、皮膚、骨。そして遺伝子。医学の発展とシンクロするように、「人間のパーツ」の商品化が、驚くほどのスピードで進行していることを、本書は教えてくれる。難病治療のため、といった「きれいな」事例など、氷山の一角。不妊治療用に卵子を売買、インプラント用に遺骨の売買、死刑囚の臓器はもちろん売買──されているわけなのだから、もちろんそこには、闇のマーケットがある。美容整形用のコラーゲンが、嬰児の陰茎の包皮細胞から作られる場合がある、というのは本当なのか。そして、そこまでして「他人の人体パーツ」を取り込んで作り上げた「自分」とは、それは一体何者になるのか? 

現代が「デザイン」の時代であることは、議論の余地がないところだろう。同時に「ボディ」の時代でもある。健康で、美的にもすぐれた「肉体」を、いつまでもいつまでも保持することにこそ、至上の価値がある。飽食の限りをつくして早死にするのは、現代の金持ちがすることではない。充分な「資本」があるのなら、自分の肉体をこそ「改造」すること。その外見と内的構造を最上級に素晴らしく「デザイン」して、オートクチュール化すること──偉大なるマイケル・ジャクソンの例を見ずとも、現代社会の人間の「病」ともいえるこの情動。その「最も暗い種類の渇望」について、本書は克明に描き出そうとする。

もっとも、人間の脳なんて、簡単に他人に書き換えられてしまう。これはずっとむかしから変わらない。ようやっとそれが、科学の発展によって、「体も同じだね」とのレベルになった、ということなのかもしれない。アイデンティティというものが、ありとあらゆる角度と意味で危険水域に入ったことを告げる、警鐘の一冊。

Text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

『ボディショッピング 血と肉の経済』
ドナ・ディケンソン著 (河出書房新社)
2,310円[税込]