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世界中のアフリカへ行こう--「旅する文化」のガイドブック

世界中のアフリカへ行こう--「旅する文化」のガイドブック

世界に広まったアフリカ発の豊穣なカルチャーを紹介・検証

09 9/28 UPDATE

ブルーズもサンバも、ロックンロールもレゲエもヒップホップも、すべて「アフリカ起源」の文化が基になった。おもに奴隷として交易されていった人々が、故郷から持ち込んだ文化が、過酷な新天地の中で撹拌され、醸造されて、花開いたものだ──という大雑把な総論の上で、「非アフリカ」である我々は毎日生活している。

とはいえ、こんな「アフリカ」については、あまり馴染みがない。現在もサッカーの試合などで普通におこなわれている、双方のサポーターによる「呪術合戦」。ピッチの土中に生きた牛を埋める、鶏の血で川が赤く染まる──といった具合に、日常生活の隅々まで浸透している、アフリカの呪術・宗教文化について知りたいときは、本書第一章冒頭の「呪術」の項を読めばいい。あまりの面白さに、目から鱗(とか、いろいろ)がぽろぽろと剥がれ落ちてくるだろう。

アフリカという巨大な地において、太古から連綿と流れ続ける文化水脈の数々──大河もあれば、地下を走る細い川もある──それらをいろんな角度から紹介・検証したのが本書。

まず、アフリカの過去から今日まで、抜き差しがたく根づいている文化と、そして社会的な課題について触れた第一章では、「呪術」「物語」「教育」「新植民地主義」など。第二章では、おもに南北アメリカやカリブ海に連行された人々──つまり「ディアスポラ」──が花開かせた文化について、「食物」「音楽」「ダンス」「文学」「スタイル」といったコラムが並ぶ。各界の気鋭の書き手が、それぞれのコラムにて、固有の文化的事象について解説し、それらがゆるやかに連携しながら、「アフリカという文化」の総体に迫ってゆく。とくに第二章、ポップ・カルチャーにすこしでも興味がある人だったら、ここを一読しないのはまずい。我々が日々、無言で享受し続けている豊穣な文化のあれやこれやについて、「そうか、アフリカだったのか!」と気づくということは、人生において重要なのではないか。

大西洋は意外に狭い。アフリカ大陸の西端から、南米大陸の東端までは、飛行機なら四〜五時間......本書のこんなちょっとしたフレーズからでも、世界を見るパースペクティヴは、ほんのすこし変わってくるはずだ。ぜひシリーズ化してほしい良書。

Text: Daisuke Kawasaki (beikoku-ongaku)

『世界中のアフリカへ行こう--「旅する文化」のガイドブック』
中村 和恵・編
(岩波書店)
1,995円[税込]