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魅惑という名の衣装 ハリウッド・コスチュームデザイナー史

魅惑という名の衣装 ハリウッド・コスチュームデザイナー史

映画の衣装デザインを扱った名著の新装版が登場

09 10/20 UPDATE

たとえばメンズ・ファッションの世界では、映画『華麗なるギャツビー』でラルフ・ローレンが男性衣装を担当。セオニ・V・アルドリッジ(同作でアカデミー受賞)の女性ファッションを向こうに回して、クラシカルなスーツやタキシードで20年代のイイ男像を表現。「世にラルフ・ローレンあり」と認めさせる第一歩となったのは有名な話。また80年代には、映画『アメリカン・ジゴロ』にてアルマーニが自らの美学を炸裂させ、大いなる脚光を浴びた......なんて話もありました。

と、リアル・クローズの世界にも「つねに」巨大な影響を与え続けるのが映画という総合芸術。なかでも、ハリウッド映画のそれとトップ・ファッションというのは、切っても切れない関係がある。本書はそんな、ハリウッドにおける「衣装デザイナーたちの活躍」を、その歴史の最初から振り返ってまとめたもの。おそらく日本では非常にめずらしい「服飾から見たハリウッド史」ともいえる一冊だ。

まず、ハリウッドという「夢の工場」では、なんといっても、その時々のスター女優が「夢」を体現することになる。そうした女優のイメージを手作業で製作する職人として、衣装デザイナーという職種が誕生した。マレーネ・ディートリッヒにはトレイヴィス・バントン、ベティ・ディヴィスにはオリー・ケリー......のちの世で女神として永遠に人の心に君臨し続けることになる大女優の「イメージ」が、いかにして生み出されていったのか、本書にて次々に描き出されてゆく。黄金の30年代、40年代の官能、50年代のエレガンス、そして現代へ......。

そもそも、我々が知る「現代のファッション」とは、「大量生産の既製服市場」がベースになっている。これは20世紀のアメリカが生み出したものだ。そして、まさに20世紀的な芸術こそが映画だった。映画がつねに「現実世界のファッションや美意識」を先導していった、ともいえる。ゆえに本書は、映画のみならず、ファッションやデザインに興味ある人ならば、まさにマストリードな一冊ではないだろうか。93年に発刊後、長らく入手困難だった本書、念願の新装版がこれだ。

Text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

『魅惑という名の衣装 ハリウッド・コスチュームデザイナー史』
川本恵子・著
(キネマ旬報社)
2,940円[税込]