09 11/11 UPDATE
そもそも、なぜ原宿には「文化」が生まれたのか? そしてその文化は「アメリカかぶれ」だったのか?──今日にまでつらなる、原宿一帯の独特&独自なカルチャーが生まれた源泉となるものを解き明かした......そんなふうに読むこともできる、はっきり言って、メチャクチャ面白いノンフィクションが本書。
現在の代々木公園一帯が、米軍とその家族が住む住宅だった、という話ぐらいは僕も知っていた。あそこに「アメリカ」があったから、「アメリカ人の子供」に向けて、表参道にキディランドが出来たのだ、といった話など、断片的に聞いたことはあった。本書はその「代々木公園にあったアメリカ」である、「ワシントンハイツ」という名の住宅地の成立と消滅までをリポートするものだ。このテーマで、ここまでの厚みをもったノンフィクションは、おそらく日本初だろう。
ストーリーは、大戦末期の空襲のシーンからはじまる。なんでも、原宿への空襲では、明治神宮の建物が執拗に攻撃されたらしい。そして戦後、かつては日本軍の練兵場だった広大な場所が連合軍(というか米軍)に接収され、「ワシントンハイツ」となる。つまり、焦土となり、バラックに住む日本人の街のど真ん中に、フェンス一枚を隔てて「あまりにも豊かなアメリカ」が突如出現したわけだ。当然それは、周囲の日本人にも大きな影響を及ぼす。いろんな駆け引きや、トラブルや、国家間のなんやかやがある......という大河ドラマのような内容が、新資料の発掘や、独自取材によってどんどんと明らかにされてゆく。そしてまた、そんな巨大なうねりの中にいても、日々目の前のことしか考えていないのが、我々庶民というもので、本書で僕が最も好きだったエピソードはこれ。
ワシントンハイツは、もちろん一般の日本人には立ち入り禁止だったのだが、近所の子供は勝手に侵入していたそうだ。広いから、そこで野球などしていたらしい。と、ある日、そんな少年たちに声をかけてくる日系二世のアメリカ人がいた。その男の指導のもと、日本人少年たちの野球チームまで結成される。その名も「ジャニーズ少年野球団」! つまり、その日系二世の男こそ、あのジャニー喜多川だった!──などなど、通り一遍の「戦後史」からは見えてこないエピソードも盛り沢山。歴史の偶然から生まれた「代々木のアメリカ」から、じんわりと染み出してきた文化のしずく。今日の原宿という大河に流れ込んだ、最初の一滴がどこからやってきたのか......本書を読みながら、そんなことに思いを馳せるのも悪くはないでしょう。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『ワシントンハイツ GHQが東京に刻んだ戦後』
秋尾沙戸子・著
(新潮社)
1,995円[税込]