09 11/24 UPDATE
菜食主義者やハードコア・ヴィーガンの友人なら何人もいるが、果物しか食べない「果食主義者」なる人々がいるなんて、本書ではじめて知った。まあ確かに、「果実を食べる」だけなら、ほぼ完全に、他の生命体を殺さずに糧を得ることができるはずなのだが......しかしさすがに、そんな食生活だと、一日に十四回ほど食事をしなければならないのだという。そのほか、珍しい果物があればどこへでも獲りに行く「フルーツ・ハンター」の冒険譚。珍しい木があったら必ず接いでしまう「接ぎ木マニア」の人......およそ「果物」と人にまつわる事柄について、その歴史、経済、地政学、文化的影響、などなどを考察しつつ、「まだ見ぬ果物と出会うため」に、著者が実際に世界を駆けめぐった記録。それが本書である。
米ユナイテッド・フルーツ社が中南米に権益を拡大してゆく過程で起きたバナナ戦争を例にとるまでもなく、近現代資本主義と果物は、切っても切れない深い関係がある。それは木に成る宝石であり、官能の源であり、王権を保障するものであり、成功と搾取のバランス・シートの中核に位置するものだった。これら複雑にからみあった「果物と人」との関係を、全方位的に描こうとしたのが本書。といっても学術書めいた堅さはない。ブラジルの街角で著者がフルーツに幻惑される冒頭から、果実から果実へと渡り歩いてゆくその過程は、まるで夢見るハチドリの飛翔のように軽やかだ。元VICEマガジンの編集者だった著者の初の著作にして、地元カナダでは受賞までした成功作。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『フルーツ・ハンター 果物をめぐる冒険とビジネス』
アダム・リース・ゴウルナー ・著 立石光子・訳
(白水社)
2,940円[税込]