09 11/30 UPDATE
バーニー・バブルスを知っているだろうか? 知らない人は、まず本書の序文を読んでいただきたい。UKロックに関連したデザイナーとして今日最も高名な一人、ピーター・サヴィルが序文を寄せている。若き日の彼が衝撃を受けた「ジェネレーションXの7インチ・スリーヴ」、そのロシア・アバンギャルド風のデザインを手掛けていたのが、誰あろうこのバーニーなのだ。
そのほか、たとえば、イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズ「ヒット・ミー〜」7インチ。『パンチ・ザ・クロック』までのコステロ。というかスティッフとレーダーとFビートのリリースの数々。さかのぼればブリンズレイもホークウィンドも、ついでに言えば現行の『NME』ロゴも、すべてがバーニーの手によるもので......もう書き出せばきりがない! 83年に自死を選ぶまで、70年代初頭からこっち、「UKロックのデザイン」に次から次へと新地平を切り開いてきたのが彼だった。本書は、そのバーニー・バブルスの初の評伝本であり、作品集といえる一冊。こういう仕事をやらせたら間違いないポール・ゴーマンが(おそらく)魂焦がしながら、かなーり気合いの入ったものとして仕上げている。
バーニーの作風には、まずユーモアがある。それは強靱なユーモアだ。たとえば戦争映画で、敵の捕虜になって拷問されて、まもなく処刑されそうな段になっても、飄々と軽口をたたいて、最後まで敵に嫌がらせしているようなキャラクター──そんな種類の「抵抗のための」ユーモアこそ彼の作品の真骨頂で、それは表紙のアートワーク(ニック・ロウ「クラッキン・アップ」7インチ用のデザイン)にもあらわれている。そして、ピーター・サヴィルならずとも、こう思うのが正しい。「このデザインこそが、あの時代のUKロックを飛躍的に進化させたのだ」と。
そりゃあ、UKにはヒプノシスもおりました。プログレもありました。でも、パブおよびストリート、パンクにインディー、ヒッピーからニューウェイヴ、地べたから「自由」を希求した音楽こそが、いま我々が立っている場所に繋がったということは歴史が証明している。そしてそんな音楽を、まるで後見人のように、圧倒的なアートワークによって世に提示し続けていたのがバーニーその人だったのだ。ジョン・ピールと同程度の偉人が彼なのだ。読めば(見れば)わかる。これぞミュージック・デザイン!という、まさに入魂の一冊。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『Reasons to Be Cheerful: The Life and Work of Barney Bubbles』
Paul Gorman
(Adelita Ltd.)