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Design for Obama

Design for Obama

「オバマを勝たせたデザイン」を集めたビジュアルブック

09 12/29 UPDATE

ここのところちょっと支持率が苦しそうなオバマ大統領だが、それはそうと、去年(08年)の秋頃は、そりゃあもう、すごかった。選挙戦がスタートしてから、就任演説に至るまで、その一連の流れすべてが史上稀にみる一大スペクタクルとなっていた。ゆえに、あれ以来、数限りない「オバマ本」が世に出たのだが、本書は異色の一冊。その名のとおり「オバマを勝たせたデザイン」を集めたもの。シェパード・フェアリーのポスターが日本では有名だが、それだけではない!どころか、本書は全250点ものイメージを収録。これですら氷山の一角。デザイナーやアーティストがオバマの選挙戦を支援するためにオーガナイズした「designforobama.org」にどしどし寄せられた無数のグラフィックから、ベストと思われるものを選びぬいて一冊にまとめたのが本書である。

というわけで、「勝つためのデザイン」の宝庫として見るのも一興。シロクマの可愛い図案をフィーチャーして「オバマ!」とやられると、なるほど、温暖化を抑止しなくちゃあいかんとだれもが思う。正義の味方だ、CHANGEが大事、などと思う。しかしなにより瞠目すべきは、こうした「イメージ戦略」がトップダウンでおこなわれたのではない、ということだ。つまり、ナチのゲッペルズ方式ではなかった、ということだ。「草の根」から発信されたイメージの集積が、オバマを大統領に押し上げた。このことの意味は、すごく大きい。

90年代からこっち、PCとネットの進化にともなって、グラフィック・デザインとポップ・ミュージックの世界に、未曾有の大変化が起きた。それまでの歴史を総括して、レベルが違う「新時代」へと跳躍してゆくような変化だった。そしてそれは、民主主義そのものを、いまだだれも体験したことがない領域まで推し進めていった......後世の歴史家なら、きっとそう位置づけるだろう「草の根の政治的パワー」がここに集結している。勝ったのは、オバマだけではない。本書に収録されたグラフィック、そのひとつひとつが「政治的に勝利した」のだ。オーウェルが予言した暗黒の未来に生きる我々は、いつのまにか、こんな力をも手にしていたのだ、と実感させられる「熱い」グラフィックが心を打つ一冊だ。

Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)

『Design for Obama』
Steven Heller 著
(Taschen America)