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アメリカ文学界の雄、カート・ヴォネガットが生前唯一書いた「絵本」の初邦訳が本書(原著は80年に出版)。タッグを組んだのは米グラフィック・デザイン界の大御所アイヴァン・チャマイエフ(NBC、モービル、NYU、チェイス銀行、MoMA、バーニーズのロゴなど作品多数)。本書のユニークな点はまず二つ。第一に、「先にチャマイエフが絵を描いて」それにヴォネガットが文章をつけていった、という方法。第二に、その題材が「キリストの誕生」だった、ということ(ヴォネガットは無神論者として有名)。
かくして、とても興味深い一冊に仕上がった。まず絵なのだが、円形と星形のフォルム──その単体や重なり、寄りや引き──しか登場しない。それらが鮮やかな原色ベタで表現される様は、ページを繰ることで成立する現代美術(もしくは知育玩具)といった趣。ブルーノ・ムナーリなど、ちょいと思い出すような感じか。
というアートをもとに、ヴォネガットが書いたストーリー、これがまた面白い。神とは言わず「造物主」が肉の身にやどる、という筋立てで、「突然人間の赤ちゃんになってしまった」彼のとまどい、驚き、喜び、そして母による「無限の愛情」のもとで安心する......といった内容となっている。つまりキリスト生誕のストーリーでありながら、「すべての赤ちゃん」にやどっているべき無垢なる魂と、それを庇護すべき愛情との幸福な出会いを、カラフルなイラストレーションの刺激を媒介に描き出したものなのだ。もちろんそれらは「子供が読んでも楽しめる」平易な文章にて表現されている。なんといっても、これは「絵本」なのですから。
というわけで、まず第一義的には「クリスマスのご贈答品」にぴったりなのではありますが、友だちの出産祝い(とくに第一子のとき)などに、これは非常にいいのではないか。また、いい大人が、冬の夜長に酒を飲みながら、パラパラやってもいいかもしれない。この大判の美しい一冊が本棚にあったとしたら、その人はたぶん「決して悪い奴ではない」──そう思っていいような気がする、そんな絵本です。
Text:Daisuke Kawasaki(beikoku-ongaku)
『お日さま お月さま お星さま』
カート・ヴォネガット&アイヴァン・チャマイエフ著 浅倉久志・訳
(国書刊行会)
2,310円[税込]