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副題を「ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?」とする本書、つまり欧文フォントの使用例の数々をヨーロッパの街頭などで撮影された写真をもとに紐解きながら、フォントと「そのアレンジ」の効果についてわかりやすく解説してくれる一冊。
というと、なにやらDTPビギナーのための書籍のようですが──そうとも言えるのですが──「それだけではない」と思えるのが本書。プロフェッショナルのタイプデザイナーのみならず、グラフィックにたずさわる人なら全員、「なるほどね」と膝を叩くところ多数なのではないか。「フランスっぽい筆記体」「フォントは見た目で選んでOK」など、とっつきやすい語り口からつたえられる「フォントの基礎」や「欧文フォントの歴史」は、楽しく、多彩で、そして奥深い。数百年前の建造物に印された文字組みから「高級感とは」と読み解く一方で、ゴディバのロゴの変遷をも批評する、その融通無碍な筆致は魅力的だ。欧文書体の実際の使用例をここまでカジュアルに、かつヴィジュアルを駆使しながら理解させてくれる書籍は、これまでになかったかもしれない、と思わされるコラムが全70本あまりも並んでいる。
著者の小林章氏は日本人ながら独ライノタイプ社でディレクターをつとめる、つまり斯界の第一人者。その彼が、自らの知識とセンスを惜しげもなく披露したところ、じつに「目に楽しい」読み物ともなった、そんな一冊が本書だ。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「フォントのふしぎ」
小林章・著
(美術出版社)
2,100円[税込]