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居酒屋の世界史

居酒屋の世界史

「居酒屋」が生まれた歴史と文化的背景を追った、読んで楽しい歴史書

11 11/07 UPDATE

ロンドンに行って友人と会うたびに、いつも僕は思う。「こいつらは、なぜこれほどまでに『パブ』が好きなのか?」と。たとえばホクストンのようなエリアでさえ、雑誌編集者や、ファッション関係者が、アフター5にはそれぞれお決まりの「パブ」に集う。なかが混みすぎているときは、店の前の路上で飲む。ずっと僕は、これは日本でいうと「夕方かならず赤ちょうちんに集う」ようなものなのか、と思っていたのだが、本書にて「やはりそのとおり」との確信を得た。居酒屋インターナショナル。人類総飲み助。

本書はそのタイトルどおり、世界中の「居酒屋」の歴史を追ったもの。著者の専門ということで、ヨーロッパ中世から近世の記述が、ひとつのコアとなっている。いわく、キリスト教圏においては、「もともとはコミュニティ活動のほぼすべてを教会が担っていた」のだが、「酒を中心としたあたり」が全部教会から追い出されて、それが居酒屋の持ち分となった、という。だからその当時の居酒屋では、酒食だけではなく、売春に散髪、金貸しに医療行為、占いに会議室――と、「神様以外」のなにもかもがあった、そうだ。たしかに、ここから分岐していったアメリカ開拓時代のサルーンにも、「いろいろ揃っていた」ことは、映画などでもよく描写されている。古代オリエント、ギリシャからはじまり、ヨーロッパを経て、イスラム圏、ロシア、そして日本も含むアジア圏、それぞれの「居酒屋」が、いかなる歴史と文化のなかで育まれていったのか、その概略を知ることができる。お勉強になりつつ、読んで楽しい一冊だ。

ロンドンのレコード屋に勤めている友人を、昼休みに訪ねたことがある。ちょっと軽くランチでも、というつもりだったのだが、友人は迷いなく僕にこう言った。「じゃあ、近くのパブに行こう」。彼はそこで、ワンパイントのビター「だけ」を注文した。飲み終わると口元をぬぐい、「さあ、仕事だ」と言う。おいおい、お前の昼めしって、それだけ?ともちろん僕は思った。ビールにも栄養はあるだろうけど......というような経験がある人にとっては、見逃せない一冊だと思う。

text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

「居酒屋の世界史」
下田淳・著 
(講談社現代新書)
777円[税込]