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ロンドン・パンクが勃興したとき、多くの若者がギターを手に取った。同じ動機で「カメラを手に取った」と、著者のグラハム・スミスは、少年だった当時の自らについて語っている。18歳の彼は、クラブにいた。ビリーズ、ザ・ブリッツ、ル・ビート・ルート、ザ・マッド・クラブ、ザ・ダート・ボックス、ザ・ワグ......彼らのような若者は、メディアから「ニュー・ロマンティックス」と呼ばれるようになった。そんなシーンのただなかで、グラハムは写真を撮りつづけていた。77年から84年にいたるまで、彼が切り取りつづけていた「夜の生きもの」たちの姿が、ここにある。
驚くべきことに、ここに収録された約500点の写真は、ほぼ未発表のものばかりらしい。著者のグラハムはスパンダー・バレエやシャーデーのスリーヴを手掛けたデザイナーであり、そのキャリアの最初は、「クラブのフライヤー・デザインを頼まれたこと」だったそうだ。つまり、彼が「個人的に」撮っていたトニー・ハドリーやシャーデーがここにいる。ボーイ・ジョージ、スティーヴ・ストレンジもいる。有名人以外のクラブ・キッズも、あらゆる意味で絢爛たるファッションでキメにキメている。それらすべてが「その場にいた仲間のヤツ」しか撮れないショットである、という点が、本書最大の魅力だ。
また本書には、クリス・サリヴァンによる3万語の長文テキストが寄せられている。そう、名うてのクラブ・オーガナイザー──というよりも、ファンカラティーナのトップ・バンド、ブルー・ロンド・ア・ラ・タークの中心人物だった彼だ。つまり(僕の個人的観点では)82年製の永遠のクラシックの一枚『チューイング・ザ・ファット』が騒々しく鳴り響くに至った時代の、「ロンドンの夜」の生態が、これでもかと詰め込まれたのが本書なのだ。
また本書は、そのリリース形態も新しい。作家が集ったウェブサイトが仲介して、そこに読者が直接注文する、という形式で、特製本やハードカバーが先行発売された(アドレスはhttp://unbound.co.uk/books/we-can-be-heroes)。ペーパーバックなら、アマゾンからも購入可能だ。
正しきダダイズムとして、瞬間的に自爆して跡形もなくなったオリジナル・パンクの焼け野原のなかから、まさに狂い咲きと呼ぶべき文化が花開いていたことを、僕らはここから知ることができる。「このシーン」についての、第一級の一次情報だけが、本書のなかにある。
text: Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「We Can Be Heroes: Punks, Blitz Kids & New Romantics, 77-84.」
Graham Smith・著
(洋書)