12 4/02 UPDATE
クラフトワークが「DENTAKU」を発表した81年より、いつの日にか「日本人の手で」編集と発行をすることが運命づけられていた一冊、だったのではないか。シンプルな書名、シンプルなコンセプトでもある本書だが、ページを繰ればたちどころにわかるこの濃密さを前にしたとき「イッツ・ア・デスティニー」だと思わざるを得ないのは、僕だけではないだろう。
世に登場してから今日までの半世紀に生産された多種多様な電卓を、フルカラーで紹介する、というのが本書の基本的な構成だ。著者はウェブサイト「電卓博物館」(http://www.dentaku-museum.com/)を主宰する斯界の第一人者であり、その彼の「所蔵品」から、ここに200点がチョイスされている。NY MoMA 収蔵の逸品があり、世界初のデスクトップ(!)電卓があり、「カシオミニ」の革命があり、ソロバンと合体した「ソロカル」があり......と、あまりのバリエーション、そのカラフルさに目眩がしそうになる。僕としては、(見た目だけの理由で)「ヴィンテージ・デスクトップ」電卓をイチオシしておきたい。
と、見ているだけで楽しめるその理由は、本書にかかわった人々の愛情と熱意ゆえなのだろうう。電卓のブツ撮り写真のひとつひとつ、その切り抜きの配置と大小、もちろんキャプションに至るまで......見事なる「電卓愛」につらぬかれている、と感じさせられるところを、僕は最大限に評価したい。なかでも、随所に挿入される「電卓がある風景」を(わざわざ)人やモノを配置して撮り下ろした写真群! こんなことをやった本、世界広しと言えどもあるわけがない。ラジカセそのほか「ヴィンテージ家電」本のシーンに、画期的な1ページを刻んでしまったことは間違いない。ぜひこれは英訳して、海外でも広く販売すべき一冊だと僕は確信する。
Macの前で仕事をしているとき、いつも僕の左手脇には電卓がある。グラフィック・デザインやレイアウトをしているときはもちろん、原稿を書いているときにも、なにかあるとすぐにキーを叩いて、必要な計算をおこなうのが、習慣となっている。言うまでもなく、そんなことは全部Macでやれる。しかし、この「習慣」に沿った作業環境であることが、僕にとってはいちばん効率的なのだ。かつて、「5」のキーに所定の指を置いて、ものすごい速度のブランド・タッチで正確に電卓を打てるガールフレンドがいたことも、僕のこの習慣が生まれた理由のひとつなのかもしれない。人の人生の一部分に、そこに抜きがたく「電卓」がある、ということもある。そんなことを、本書を読みながら思った。
text: Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
(C)大崎眞一郎/(株)太田出版
「電卓のデザイン DESIGN OF ELECTRONIC CALCULATORS」
大崎眞一郎・著
(太田出版)
1,680円[税込]