12 5/14 UPDATE
本書を待っていた人、いや、この企画がプリント・メディアとなることを待っていた人は、多いのではないだろうか。ページを繰っていくこと、見開きページをぐいっと広げて、ゆっくり眺めることが、ことのほか楽しい一冊だ。
パリに住むフランス人アート・ディレクター/グラフィック・デザイナーである著者が、オンライン上でこの企画を始めた。「パリ対ニューヨーク」、つまりふたつの都市を「絵によって」比較する、という遊びだ。エキシビジョンそのほかで、この遊びの観客はどんどん増えていった。本書副題の「Tally」というのは、「割り札」という意味になる。たとえば、古いギャング映画などに「割り札」は登場する。なにかの取り引きを、見知らぬ相手とやらなければならない場合、「合わせるとひとつの絵になる」ような割り札がその手のなかにあれば、そいつが交渉相手なのだ......といったシーンに「Tally」は出てくる。ここではつまり、いろいろなお題に沿って、パリとニューヨーク、このふたつの都市が「絵合わせ」をおこなっていく、ということを意味する。
お題はいろいろある。「空港」と題されたものでは、こんなふうになっている。オレンジ字に「CDG」と書かれた一枚の絵と、薄いブルー字に「JFK」と書かれた一枚が並ぶ。CDGはシャルル・ド・ゴール空港、JFKはジョン・F・ケネディ空港だ。これはどちらも人名でもある。だから、それぞれの色彩の上で、「空港名となった偉人の横顔」がシンプルな線画で描かれているのだが、その描線は飛行機の航跡を模したもの――といったイラストになる。このタッチが、とてもいい。全編にわたって、色彩もとてもいい。選択されるカラーそのものに、闊達たるユーモアとウイットがあふれている。
そのほか、僕が気に入っている絵合わせは「かっこいい(l'allure)」という題でパリジェンヌとマッドメンが並ぶもの、「スーパーヒーロー」でカール・ラガーフェルドとマーク・ジェイコブズが本当にスーパーヒーローになっているもの、などだ。だれもがきっと、本書からお気に入りの組み合わせを見つけることができるだろう。
本書と同内容のポストカード・セットも発売されている。そちらもお薦めだ。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「Paris versus New York: A Tally of Two Cities」
Vahram Muratyan ・著
(Penguin)洋書