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女の子のためのロンドン・ガイド THE LONDON BOOK

女の子のためのロンドン・ガイド THE LONDON BOOK

アーティスト SHOKOによる「女の子向け」で「文化的」な正しいロンドンガイド

12 8/02 UPDATE

あったあった、と、自分が好むレコード店がまだ元気で営業中であることを、僕はこの本で知ることができた。この一点において、本書は女の子のみならず、僕にとっても信頼に足る「ロンドン・ガイド」だということがわかり、ここに取り上げた次第だ。

本書は、ロンドン滞在歴も長いアーティスト SHOKO が、個人的な観点からピックアップしたかの地のお店やスポットなどを紹介する、というもの。写真が多く、レイアウトが楽しいところがいい。逆に誌面のサイズが大きく、マップが簡素に過ぎるので、本書にはかつての『地球の歩き方』のような使用法はそぐわない。自宅で、あるいは旅先のホテルで、パラパラとやっては、「こんど行きたい場所」に想いを馳せるとき──これは、ことのほか幸福な時間であるはずなのだが──そんなときにぴったりな作りだと言えるだろう。

ハニカム読者にとって最大の問題が「女の子のための」と謳われているところ、かもしれない。しかし気にしてはいけない。昔から僕は、日本製の「街ガイド」を手に取るのだったら、「女の子向け」のものしか見ない。理由はわからないが、「男性向け」の気が利いたガイド本など、これまでの人生で一冊も見たことがない。また、ことさらにユニセックスを目指したがために焦点がぼやけてしまったような本も願い下げだ。

とはいえ、「女の子向け」のガイド本は世に多いのだが、基本的にはどれもこれも、どこかの女性誌の特集を孫引きしながら水で薄めているようなものばかりだといえる。グルメでもエステでもなんでもいいが、肉体的かつ直接的な刺激ばかりをてんこ盛りで追い求めているその様は、正気で直視できるものではない。ではお前はなにを求めてよその街に行くのか、とだれかに訊かれたら僕はこう答える。中古レコードと古書と古着、それから美術館や博物館、庶民的かつ優れた食事、くわえて「そこに固有の」空気や風景といった自然と触れ合うために僕は旅をするのだ、と。できるかぎり形而上に属することを感じとるために行くのだ、と。

この点で本書は、僕と趣味が合う。ここで取り上げられているレコード・ショップ『INTOXICA!』を、僕は10年ほど前に知った。サイラスに作品を寄せていたイラストレーターのファーガスが教えてくれたのだ。僕にとって一番ありがたいのは、こういう形で伝わる情報だ。趣味が合う(もしくは、僕の趣味をわかっている)友人が教えてくれる口コミに勝るものはない。だから、本書の「趣味」が自分のそれに合う人だったら、この一冊から新たに得ることは多いはずだ。本書の趣味とは、それは言うまでもなく、「文化的」だということだ。そして、それを覗き見ることこそ、「女の子向け」の正しいガイド本を手に取るときの愉悦なのだ。

text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)

「女の子のためのロンドン・ガイド THE LONDON BOOK」
SHOKO・著
(文化出版局)
1,575円[税込]