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書名の「モノ」とは、この場合、大英博物館に収蔵されている700万点以上の古遺物を指す。そこから100点を選び出し、その「モノ」について語りながら、壮大なる人類の歴史そのものも俯瞰してみよう、という試みがなされているのが本書。大英博物館の現役館長でもある著者が、BBCの番組のために語った内容がここにまとめられている。こういう仕事をさせると、さすが、大英帝国は文句なしにすごい。
「モノ」と言っても、本書で出てくるのは古代のそれだ。200万年前(!)からストーリーは始まる。なぜなら、映画『2001年宇宙の旅』のモノリスではないが、「道具を使う=モノを作る」ことから、人間は人間となったからだ。氷河期があり、都市国家が興隆し、孔子が世に出てくるころ(紀元前500年~300年)までが、当シリーズのパート1である本書には納められている。つまり、人類が文字によって何事かを記録し始めるよりも、はるか以前の時代こそが本書の大半を占めているわけだ。であるから、「モノ」に語ってもらわねばならない。そこで語られる「モノ」語りの、なんと豊かなことか。僕のお薦めは、約120~140万年前に作られたと見られている、「オルドヴァイの手斧」だ。それぞれの「モノ」をとらえた写真もじつにいい。
最初にロンドンに行ったとき、僕は大英博物館に行った。一日だけだったので、あまり多くのものは見ることができなかったのだが、ロゼッタ・ストーンをこの目で見たときの衝撃は、たぶん一生忘れることはない。ベイ・シティ・ローラーズのイアンがやっているバンド名が「ロゼッタ・ストーン」だったから、その名の由来になったモノを見たかっただけだったのだが、とにかくそのとき肌に感じたことは、強大な(あるいは、かつて強大だった)国家には、これほどすさまじい博物館があるものなのか、ということだった。逆に言うと、いかに表面的に格好を取り繕おうと、まともな博物館も運営できないような体制は、それはまともな政府ではない、ということでもある。天皇陵の考古学的調査すら「タブーである」としてしない、日本などがこれにあたる。
しかしそんな日本も、太古は捨てたものじゃなかった(?)のか。たんに縄文人だけがユニークだったのか。「人類史上、最初に壷を作った」のは、どうやら縄文人だったそうだ。どおりで、のちの世に「へうげもの」が出たわけだ、と納得もさせられた。そんなところからも──モノにこだわる現代日本人としても──本書は見逃せないのではないか。
『帝国の興亡』と題されたパート2も現在発売中。こちらで紀元前300年から15世紀まで一気に進んだあと、パート3で完結となるそうだ。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「100のモノが語る世界の歴史1: 文明の誕生 」
ニール・マクレガー著 東郷えりか・訳
(筑摩選書)
1,995円[税込]