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新版 大阪名物:なにわみやげ

新版 大阪名物:なにわみやげ

実用書に収まらない熱量がほとばしる「ほんまもんの大阪名物」

12 11/30 UPDATE

この本は、すごい。写真の一点一点、テキストの行間すべてにまで、作り手たちの熱が充満している。とんでもない一冊だ。基本構成は、タイトルどおり、大阪で買って帰ることができる「みやげもん」のうち、厳選された70点が紹介されている、というもの。その商品が販売されているお店も紹介されている。旅行や出張の際はぜひ持っていきたくなるような、つまりはそういった「実用書」としてのしつらえが第一......のはずなのに、その体裁をも壊しかねないほどの熱量が、ページの向こうからほとばしっているのである。すこし長くなるが冒頭の「はじめに」から、著者の言葉を引いてみたい。ここに「熱」の出どころがある。

「それは、大阪駅、新大阪駅、伊丹空港、関西国際空港など、大阪の玄関口で、最も売れるお土産が、赤福だと聞いて驚き、二番目が八つ橋、三番目が神戸プリンだと知って呆然とし、『食い倒れ大阪』に名物がないはずはないと、『ほんまもんの大阪名物』を一所懸命に探して、大阪中を歩き回っていいものを集め、一冊に編んだものでした」

この動機の出どころ、「熱」の出どころ、僕はよくわかる。ちなみに、赤福とは伊勢の名物、八つ橋は京都で、神戸プリンはたぶん神戸の名物だ。

幼少期を大阪で過ごした記憶が僕にはある。僕の父は、外食にしろ、みやげものにしろ「どこのなにがおいしい」などといったことを、とにかく一切口にしない人だった。払うお金の多寡によって、それ相応のものが手に入って当たり前であり、食べ物などはとくにそうなのだ、という一貫した姿勢があった。冷淡と言えば冷淡、尊大と言えばそうでもある、そんな態度だ。父はもともと大阪の人ではなく、それどころか日本の外で生まれ育ったので、そのせいで「大阪の食」に冷たいのか、と考えたこともあった。が、じつは父のような態度こそ、古くから大阪に根づいている美意識にのっとったものだったではないか、と本書を読んで僕はふと思った。

自らに過度の虚飾を与えない、過剰なるレプレゼントはしない、逆にあらゆる意味において「リーズナブルでなければいけない」ということ――これが大阪の「ほんまもん」の入り口だったのではないか。そんなことを考えさせられた。共著者のひとり、団田芳子さんは老舗雑誌『あまから手帖』に寄稿されているかただ。もうひとかたの井上理津子さんは、あのノンフィクション『さいごの色街 飛田』を書いた人だ。関西のご出身でもあるおふたかたが、ある意味で「飾らなすぎる」大阪名物を、手加減なしで掘り起こしていく本書は、町との付き合いかたの指南書のようですらある。写真も美麗、紹介テキストはエッセイとしても楽しめるだけの精度がある。食品だけではなく、手工芸品、日用雑貨なども紹介されている。

なにはともあれ、「日進堂」の紅しょうが天ぷら、「はり重」のお肉の佃煮、「さとこの店」のお多福甘納豆、といったあたり、僕は見ていてたまらないものがあった。ひさしぶりに大阪に行けばいいのか。同種の趣旨、同じ著者で、対象範囲を広げた『関西名物 上方みやげ』も発売中。

text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)

「新版 大阪名物:なにわみやげ」
井上理津子 団田芳子・共著
(創元社)
1,365円[税込]