13 11/22 UPDATE
オリジナル版が出たときにも気になっていたのだが、買い逃していたので、この新版は嬉しい。「more 160 items」とのサブ・タイトルどおり、旧版に160枚を加えた全832枚の「ライト・メロウ」なレコードが紹介されている。
ライト・メロウとはなにか? これは監修者の造語であるようだ。「AOR」や「ソフト&メロウ」と、日本では区分けされた洋楽ナンバーなどと「テイスト的に相通じる」と感じられたジャパニーズ・ポップ・ソングがそれに当たるらしい。類似のジャンル用語である「シティ・ポップ」のなかでも、ライトにしてグルーヴィーな味わいのトラックこそを特に指すもので、「UKにおけるレアグルーヴの概念と近い」そうだ。
と、聞いても、わからない人にはわからないかもしれない。ではたとえば、僕のこんな体験談はどうだろう。たしかあれは、21世紀に入って日も浅いころ。NYのDJ、シチズン・ケーンから一枚のミックスCDを僕はもらった。そのなかで、ごく当たり前のことのように、山下達郎の「ダンサー」が使われていて、印象深かったことがある。そのすこしあと、アメリカ人の友人から、こんなことを訊かれた。「マツリバーヤシガキコエル、のアナログって、まだ買えまーすか?」──彼が探していたのは、柳ジョージの「祭りばやしが聞こえる」のテーマ・ソングだった......僕が解する「ライト・メロウ」とは、つまりこんな概念だろうか。
歌詞がほとんど、あるいはまったくわからない外国人であっても、そのサウンドとグルーヴに「なにか感じさせられる」ようなもの。思わずDJで使いたくなってしまうようなもの。そしてなによりも「都会的」で「コスモポリタン」なもの......かつて、ある特定の一時期の日本の都市文化のなかで、日本人が最も得意にしていた「はずのもの」。つまり、「洗練」や「贅沢さ」や「楽天性」を強く指向するポップ・ミュージック、というものの一部がそれだ。
かつて僕は、日本語で歌われた音楽のほとんどすべてに、まったくなんの興味もなかった。幼少期から少年期、のちにプロの書き手となってからも、それはなにひとつ変わらなかった。ごく一握りの音楽家の作品だけは、例外として継続して聴いていた。両手の指で足りるような、それぐらいの数だ。
「それぐらいの数」から派生し、発展していったアーティストの作品が、どうやら「ライト・メロウ」のなかでは、重要な役割を果たしていたようだ、と本書を見て気がついた。僕は日本語の歌はほとんど聴かなかったくせに、「ライト・メロウ」と将来区分され得るようなものは──キャロルなどと同時に──好んでいたようだ。もちろん、これだけの物量だから、僕にとっては、聴いたことのない未知の盤、未知のアーティストのほうが圧倒的に多い。これ一冊で、当分のあいだ楽しめるという気がしている。
外国人の友だちが多い人には、とても役に立つ一冊かもしれない。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「Light Mellow和モノSpecial ~more 160 items~」
金澤寿和 + Light Mellow Attendants・著
金澤寿和・監修
2,100円[税込]
(ラトルズ)