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Metal Cats

Metal Cats

ハードコア・メタル・シーンと猫によるアメイジングなコンビネーション。

14 5/14 UPDATE

表題のまんまの写真集である。版元の紹介文から引いてみようか。「スカルとシャム猫。コープス・ペイントとペルシャ猫。バフォメット(山羊頭の魔神)、五芒星、血、トラネコ!」......つまり、そういう本だということだ。「ハードコア・メタル・シーンのエクストリームなパーソナリティーとかわいい猫ちゃん」というアメイジングなコンビネーションが、「これでもか」と出てくるのが本書なのだ。

被写体となった「人物」は、ミュージシャンを含むメタル界隈の人々ばかり。わかる人のために、メンバーが登場してくるバンド名を列記してみると、こうなる。

Black Goat、Thrones、Isis、Lightning Swords of Death、Book of Black Earth、Skarp、Harassor、 Akimbo、Aldebaran、Atriarch、Oak、Ghoul、 Ludicra、Holy Grail、Xasthur、Cattle Decapitation、 Murder Construct、Exhumed、 Morbid Angel、Municipal Waste、Skeletonwitch、 Gypsyhawk、Nausea、Phobia、そして Napalm Death。

これらの名称に馴染みのない人のために説明すると、とにもかくにも「むくつけき」野郎どもだ、ということだ。体重が重かったり、髪や鬚が生え放題だったり、装束はとにかく「黒」ずくめ、ときに鋲などが打たれ、肌にはタトゥーが多数......という人々が、愛猫とともに一枚の写真にうつっているわけだ。本書の一番の読者がだれなのかは言うまでもないが、「猫は好きだけど、メタルだけは絶対に嫌」という人だって、ちょっと頑張って(猫だけにフォーカスして)ページを繰ってみれば、意外に簡単に、微笑ましく楽しい気分になれるのではないか。悪魔やロックと、猫との相性のよさに心なごむのではないか。

こうした類の写真が、日本にはことのほかすくない。「猫と人との共同生活」を象徴するような一瞬を切り取った見事なるワン・ショット、というものが、なぜこれほどないのか。「生活」というものが、そもそもないのか。日本には、岩合光昭さんという不世出の大天才がいる。どう考えても「猫が撮った」としか思えないようなアングルで、野生動物としての猫が、まるで同族を目にしたときのような表情をとらえることができる達人が彼だ。そんな人物がいるにもかかわらず、その他大勢の大半はポルノグラフィでしかない。かわいい猫、というテーマに沿って、「見る側」の欲望という欲望を、被写体の上にてんこ盛りにする、という意味で、まぎれもないポルノ写真と成り果てているものが、そこらじゅうに、山のようにある(マンガでもB級グルメでも洋服でもコスメでも、あらゆるものすべてがポルノ的になるのが昨今の日本大衆文化唯一の流儀だ)。

であるから、日本に最も「ない」ものが、言うなれば「本書のような」写真なのだ。日本のアマゾンで、『365 CATS』というアメリカ製の日めくりカレンダーが、毎年毎年、とてもよく売れていることをご存知だろうか。これは「猫だけ」が被写体となった投稿写真が使用されているのだが、当たり前だが、撮っているのは「人」だ。だからその一枚の背後に「猫と人、両者のくらし」があることが、如実に浮かび上がってくる、という構造になっている。だからもしかしたら、『365 CATS』収録写真の背後(の一部)には、本書のなかのような光景があったのかもしれない。あのカレンダーの秀逸な猫写真の何枚かは、こんな「むくつけき」野郎どもの、熱意あふれる投稿作品だったのかもしれない。

そんなことも考えさせられる、シンプルにして見事な一冊だ。ここには固着させられた「LIFE」がある。

text: Daisuke Kawasaki (beikoku-ongaku)

「Metal Cats」
Alexandra Crockett 著
(powerHouse Books)洋書