15 6/09 UPDATE
この内容でこの値段は安い。およそ20センチ角の大判サイズで全288ページ・フルカラー。こんな一冊が手元にあるだけで、なんとも言えない安心感が育まれるのではないか。愛書家はもちろん、そうではない人であったとしても、人類がこれほどの長きにわたり営々と、文明および文化とともに歩んできた、という事実には、深い感銘を受けるはずだ。ウィー・アー・ノット・アローン、と口走ってもいいのではないか。
本書の主著者、ロデリック・ケイヴは、印刷の歴史の研究家、情報学の大家であるとともに司書でもあり、あの大英図書館の顧問だった人物だ。大英図書館とはつまり、カール・マルクスが『資本論』を書く際に数十年間通い詰めて資料を漁った場所だ。ちなみに大英博物館にはロゼッタ・ストーンがある。初めて見た12歳のとき、あれを触れば僕も『2001年宇宙の旅』のサルのように進化するのではないかと思った(が、もちろん触ることはできなかった)――と、そんなものまである国の、間違いなく最高位の「本の専門家」がまとめ上げた一冊が本書なのだ。「100冊の『本』でたどる人類の叡智5000年の歴史!」という惹句は伊達ではない。
なにしろ、パピルスどころか、最初に登場するのは洞窟絵だ。そこから300点以上の図版を駆使して、人類の思考と「本」とがからまりあった一大アドヴェンチャーが語り起こされていく。この構成がまず見事だ。本に記された内容と、「どのようにそれを記していくか」「保存・複製するのか」といった方法の進化も、ほぼ同時にあわせてとらえていくことができる。日本からは、『源氏物語』がエントリーしている。人類最古の物語ではないが、最初期の心理小説と見なすことができる、とされている。そして活字印刷から電子書籍まで、さらなる未来に向けての展望が語られていく。
インターネットは人類を変えた、とするならば、そうなった理由は、人類がそもそも「本というものを知っていた」からだ。そしてこの先も(マッドマックス的なカタストロフィがやってこないかぎりは)、言葉とイメージを操り、思考して論理と秩序を重視する種族としての人類は「本の歴史から生まれてきたもの」と無縁となることはない――そう確信させられること請け合いの、雄大なるスケールの一冊が本書だといえる。
それだけに、一家に一冊はもちろんのこと、まだ小さな子供がいる人だったら、なにを置いても書架に備えておくべき本のひとつがこれだろう。もちろん、いつでも気軽に手にとれる位置に。
text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「世界を変えた100の本の歴史図鑑:
古代エジプトのパピルスから電子書籍まで」
ロデリック・ケイヴ、サラ・アヤド・共著
大山晶・訳
樺山 紘一・日本語版監修
(原書房)
¥4,104(with tax)