15 8/07 UPDATE
見て楽しく、読んで納得、読み返すほど発見多数、そのたびに意識の深いところにまで「真なる知見」が蓄積されていくようなすぐれた一冊だ。少なくともグラフィック・デザイナーは全員必携だろう。本書は、ありとあらゆる記号と図像の解説書であり、ヒトの認識力と美と、情報伝達の哲学とその実際的な方法の精髄を、史上空前の規模でつまびらかにした一大ページェントと評されるべき一作だ。
本書の主題は、言うなれば「記号の形態学」だ。サインやシンボルが、いかに人類に不可欠なものであったのかが、まず語られる。記号論があり、書き文字(アルファベット)の考察がある。さらにそこから、古代の象形文字、中華圏の易経記号、アメリカ先住民の動物線画、現代の企業ロゴ、日本からは家紋など、つまり「イメージを抽象化して描くことによって、言語同様に、明確かつ具体的な事物を指し示す」その方法のメカニズムと意義が、あらゆる実例をもとに解説されていく。巻頭の「記号の地図」だけでも見飽きることはないだろう。太陽や星、十字など、あらゆる文化圏に存在するシンボルマークや図形を、サンプル蒐集し、特定し、併置しているページがそれだ。あと、「疑似科学と魔術のサイン」の項もあるから、これでレッド・ツェッペリン『Ⅳ』の謎文字の意味も解けるかもしれない......もちろん、「イメージ」について縷々述べられているのだから、イラストも多数(2500点以上)。そして、それを全部手描きしているのが著者のアドリアン・フルティガーなのだから、これを眼福と言わずにどうしよう――という、全480ページの大著が本書なのだ。
アドリアン・フルティガーは、モダン・タイポグラフィ界の最高峰に位置する巨匠だ。彼の名を冠した書体「Frutiger」、ド・ゴール空港の案内板などに使用するために設計されたこの書体だけでも、世界中の公共空間での「言葉の見え方」を劇的に変化させた。さらには「Univers」「OCR-B」「Glypha」「Avenir」――フルティガーが生み出した「文字の形とそのナラビ」は、20世紀後半以降の文化全域に巨大な影響を与えた。その彼の長年の研究がまとめられた一冊が本書だ。読む人によっては、至上のリーディング・プレジャーが得られること間違いない良書がこれだ。
text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「図説 サインとシンボル」
アドリアン・フルティガー 著
小泉 均・監修 越 朋彦・訳
(研究社)
5,500円[税抜]