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タイトルを直訳するなら「残念なスーパーヒーロー同盟」だろうか(名作コミック『The League of Extraordinary Gentlemen』のもじりだろう)。そしてサブタイトルは「コミック・ブックの歴史における生焼けのヒーローたち」――本書はそういう一冊だ。歴史の影に埋もれて消えていった、「失敗した」アメリカン・コミック・ブックのヒーローたちの雄姿を、いまいちど掘り起こしてきては、埃を払い、カラフルな図像とともに紹介してくれるものだ。かなりのマニアだったとしても皆目見当がつかないだろう、「謎ヒーロー」たちが本書のなかで山盛りになっているはずだ。
たとえば、こんなヒーローがいた。「ビー・マン」、バットマン的なコスチューム・ヒーローなのだが、そのモチーフは「蜂」。「スクワレル・ガール」、自在にリスをあやつれるリス少女。じつはマーベル所属でアイアンマンと共演も。「ファットマン・ザ・ヒューマン・フライング・ソーサー」、その名のとおり、危機に瀕すると空飛ぶ円盤に変身できる太っちょ青年。それから「レッド・ビー」「ドール・マン」「キッド・エタニティ」「スパイダー・クイーン」「ミスター・マッスルズ」。そして「ジ・アイ」! 宙を漂う巨大な目の玉、というヒーローがこれだ。僕が最も心惹かれたヒーローは、「ドクター・ホルモン」。彼は生命の神秘を解き明かした天才科学者にして、自らの肉体に特殊な「ホルモン」を注入し若返ってナイスミドルに変身、孫娘(!)のジェーンとともに、ヨーロッパを席巻しようとする悪の枢軸と戦う。武器は得意の遺伝子改変技。その技術で半獣人軍団をクリエイトするぞ!......というストーリー、だったそうだ。コミック・ブックの発行は1940年から41年、第二次大戦中の戦意高揚型ヒーローだった、としても――「無茶だ」と言うしかない設定であることは間違いない。そんな、まさに「多士済々」と言うほかない、エキセントリックな人物像たちの数々が、愛情を込めた筆致で次々と紹介されていくのが本書だ。
今日、マーベルやDCといった最大手のコミック・ブック・ヒーローたちは、アメリカ娯楽映画の主流の地位を寡占している。しかしここに至るまで、両社とも成功よりは失敗の数のほうが断然多い、死体累々と言ってもいい歴史を積み重ねてきた。大手ですらこれなのだから、「周縁」がどんな状況だったのかは推して知るべしだろう。ひとつのスーパーヒーローの陰には、幾千幾万もの「失敗作」がある。また逆に、「ひとつの成功作」があったならば、その柳の下を狙って有象無象が挑戦を繰り広げ、結果、討ち死にした者が「累々」となる......これが世の定めだ。だからこそ、自らもカートゥーニストである著者がここで開陳してみせるような愛情の質こそが、その文化の厚みをも物語るものだと言えるのではないか。ノーザン・ソウルも、ガレージ・ロックも、古書も古着も、みんなこうした行為の積み重ねによって体系立てられてきた。アメリカン・コミックスが生まれた時代から近年に至るまで、BどころかC級からZ級までのコミック・ブック・ヒーローを集めた本書は、ハードコアなコミック・ファンならば見逃せない一冊だろう。あるいはまた、ヴィンテージ印刷物の味わいを楽しむという観点から、贈り物にもいい一冊かもしれない。
text by DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「The League of Regrettable Superheroes:
Half-Baked Heroes from Comic Book History」
Jon Morris 著
(Quirk Books)洋書
$24.95(+tax)