15 9/08 UPDATE
表紙の写真は、かつて北海道にて旧国鉄が運営していた士幌線(しほろせん)、帯広から十勝三股駅まで伸びていた鉄路の「第四音更川橋梁」が、今日、遺構となっているその姿をとらえたものだ。全長90メートル以上の、まさに威容と言っていいその構造物が、滅多に人など通りかからない山奥に、こうしてそのまま屹立している様になにか感慨深いものを感じたならば、あなたも本書を手に取ってみるべきだ。
本書はそのタイトルどおり、「すでに使用されていない」鉄道、つまり廃線となった鉄道の線路や橋脚などのうち、「遺構」と呼ぶにふさわしい、魅力あふれる構造体をくっきりした写真で切り取ったもの。全14件の「遺構」がここに収録されている。デザイン的にもよく整理された内容となっている。僕にとっては見ていて発見が多い一冊だった。よほどの鉄道マニアの人でないかぎりは、僕同様の感想を持てるのではないか。
鉄道とは、なにか。19世紀の世界において、鉄道とはまさに「近代化」の象徴だった。国家のいたるところを近代化していく際に、決して欠かすことのできない動脈そのものだった。明治5年(1872年)に初めて開通した日本の鉄道は、そこから、日本全国に張り巡らされていく。物流の中心を司るものは、あくまで鉄道だったからだ。だから「道なき場所」にこそ、鉄道は通されていった。山に穴を穿ちトンネルを通し、川に「近代的な」橋を架けてはレールを走らせた。これらの事業の壮大さに思いを馳せつつ、廃墟や廃物を美的に鑑賞するという視点からも咀嚼することができる、そんな一冊が本書だ。もちろん、それぞれの遺構について、歴史や構造、そのユニークさについてもきちんと解説されている。高知県の魚梁瀬(やなせ)森林鉄道のトンネルや鉄橋、碓氷線の第三橋梁、清水埠頭駅のテルファークレーンなどが僕には印象深かった。
かつては「列島の大動脈」だった近代化の象徴が、こんなふうに草むす風景のなかなどで朽ちていく様を連続して見ていくと、ある種独特な感覚に突如襲われる、かもしれない。すでに日本ぜんたいが滅んで、廃墟となっているような錯覚、とでも言おうか。本書を開く最大の効用は、手軽にそれを感じとれることかもしれない。
text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「鉄道遺構 再発見 (LIXIL BOOKLET) 」
伊東孝 西村浩 小野田 滋・共著 西山芳一・写真
(LIXIL出版)
1,800円[税抜]