15 10/20 UPDATE
衛星写真、つまり、人工衛星に搭載されたカメラによって、超高々度から撮影された地球表面の風景写真を集めた写真集が本書だ。奇妙に美的で静的な風景、なかでも、人の手がかかった建築物などが、芥子粒のようなサイズとなって、周囲一帯の自然環境とともにひとつの大きな「図形や模様」のなかに飲み込まれている様は圧巻だ。そんな写真ばかりが収録されている、まさに言葉どおり、いい具合に「浮世離れ」した一冊がこれだ。
本書に収録の写真はすべて、米デジタルグローブ社が撮ったもの。同社は、世界最大の民間人工衛星撮影企業だ。「地球上の全大陸はもちろん、北朝鮮から南極まで」において撮影された120箇所のショットが本書には収録されている。ここでひとつ述べておかねばならないのは「Google Earthとは違う」ということ。どう違うか? 圧倒的なまでに「解像度が違う」。どんなレンズで、どんなメカニズムのカメラで撮ればこうなるのか。「すさまじい」と言うほかないハイパー・クオリティの写真撮影機能から生じる、官能的なまでの美的感興、これがまずひとつ。そして、それらの写真群のなかから、本書に収録すべきものを選び、画像調整をおこなったのが、著者である写真家の佐藤健寿だという、この点も大きい。それぞれの写真の解説も著者が書いている。ヒット写真集『奇界遺産』シリーズで、彼の名を知っている人も多いだろう。奇界の奇景の専門家とも言える著者が、現代科学の粋を尽くした「超空の眼」を得て、あらたに発見した「不思議なランドスケープ」の数々がここにある、というわけだ。おもに、「真上から見下ろした」視線のもとで。
収録の写真は、いくつかのカテゴリーに分類されている。「聚落」では、その名のとおり、「人が暮らしている場所」が鳥瞰される。中東のリゾートからアフリカの水上スラムまでが出てくる。「構造」では、ビルなど、ときには「巨大」と形容したくなるだろう建造物を見下ろしてみる。南沙諸島がここに出てくる。「産業」では日本の臨海工業地帯やアフリカの鉱山などが登場。錆びたような鉄の色調がとてもいい。そのほか、「特異」では軍施設など、日常では滅多に目にできない場所をとらえる。「自然」では火山や氷河といった、地球そのものの生命活動と呼ぶべき変化から生じた風景の、そのよりすぐりのところがピックアップされている。
本書の惹句にはこうある。「奇妙な惑星、それはいつか人類が見る 最後の絶景」――ここの「最後の」とは、どういうことだろうか。ヒトの最後とは、とりあえず死ぬことだから、「昇天していくときに見える光景」ということなのか。あるいは、ほかの天体へと大規模移住できるようになった時代の人類が、故郷である地球をあとにしていくそのときに、「最後に」その目に映る風景、ということなのだろうか。その答えは、本書のなかにある。
DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「SATELLITE」
佐藤健寿・著
(朝日新聞出版)
3,800円[税抜]