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本書は、以前僕が当欄でご紹介した『女の子のためのロンドン・ガイド THE LONDON BOOK』（文化出版局）の続編と言える一冊だ。著者も同じく、アーティスト、シンガーでもある SHOKO だ。前作は「街ガイド本」としての体裁だった。本書はちょうどその逆側、「人」にフォーカスしつつ、ロンドンという都市と、そこにある生活と文化の奥行きへと読者の意識を導引していくような作りとなっている。言うなれば「ロンドンっ子のようなライフスタイルへのガイド本」として、前作とは陰陽の関係にある。

本書の鍵となるのは、ファッション――というよりも、「スタイル」だ。「ロンドンの『いい感じ』の女性が、どんなふうに『自分らしい』着こなしをしているのか」。このことについて、いろいろな角度から考察されていく。だから、ロンドンの街頭にて撮影されたスナップ・ショットも多数収録されているのだが――これがとてもいい！というところが、本書の優秀性のなによりもの証明だ。なぜならば、僕はつねにこう確信していたからだ。「ことロンドンの街頭ファッション・スナップだったならば、女の子よりも男の子のほうが、圧倒的にかっこいいのが当たり前」だと。それが本書では、まったくもってそうではない。僕の定説はここで完全にひっくり返り、「かっこいい」女性たちの数々が、多彩にして快活、それぞれがそれぞれらしく、じつに「いい感じ」の着こなしを次から次へと本書のなかで開陳してくれているのだ。

だからこう言うべきだろう。「こんな着こなしをしている女の子」を街頭で呼び止めて、いい表情の一枚のショットとして、本書へと呼び込んできた張本人である著者の、そのアンテナの精度と行動力には感服するしかない、と。「男の子が添え物にしか見えない」ほどに女の子がかっこいい、そんなロンドンっ子のファッションが、これほどまとまって見ることができる本というのは、かなりめずらしいのではないか。

また本書には、著者 SHOKO のアーティスト・ブックとしての側面もある。彼女が自らの着こなしを見せて示し、その意図や構造を説明する、というページもある。その背景となった、（つまり彼女が「そのような服を着る人となる」に至った）バックグラウンドも語られる。生い立ちの話題から、ロンドンの友人たちの紹介、彼女のよき協力者であるアニエス・ベーとの対話もある。そして公私ともにパートナーであるカジヒデキとの初の対談、こちらも（当然）かなりすごい。話題の中心はUKのポップ・カルチャー、なのだが、これだけで軽く単行本数冊は作れるはずだ......などなど、雑誌的なバラエティにも富んだ内容となっている。著者お気に入りのアイテム紹介や、（やはり切れ味のいい）お店紹介だってある。

といったわけで、本書をごくシンプルに分類するならば、たしかに書名と副題どおり、（着こなしの参考にする、という意味での）実用書だとも言えるのだが、そのじつは、なんともユニークかつ啓蒙的な一冊なのではないか、と僕は感じている。かつて、（あるいは、今日も）カテリーヌ・ミリネアとキャロル・トロイの『チープ・シック』が、人々の日常のなかに大きな影響力を発揮していることと同質の意味での、啓蒙性だ。いい感じの着こなしと、そこに結実するべき日々の暮らし、誠実で健康的で、美と理性と友愛と寛容をなによりも尊重する、そんな「文化的生活」を営むことができる「可能性がある」場所が、本書のなかのロンドンだ。幾分フィクショナルながら、東京にだって、そんな可能性は「なくはない」のかもしれない。僕には確信はないのだが。

本書の著者、SHOKOは僕のように消極的ではない。勇気を持って、前へ前へと彼女は進んでいく。「そんな可能性」が、座して自動的に手に入るものではない、のだとしたら、ならばこちらから「探しにいきましょう」――そんなふうに、本書はあなたを誘うだろう。まさしく著者自らが探索行のキャラバンの先頭に立ち、掛け声も勇ましく、「いっしょに行ってみよう！」と、読者を鼓舞するような一冊がこれなのだ、と僕は強く感じた。なぜならば古来、「スタイルがある着こなし」とは、まず最初に「その人物の理想と価値観」をこそ示すものだったからだ。そしてなによりも、とにもかくにも、「そんな考えかた」の本家本元と言えば「ロンドンに決まっている」からだ。そんなことを、じつにひさしぶりに僕は思い出した。

text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)