15 11/16 UPDATE
とても魅力的な佇まいの一冊だ。その理由は、「魅力的な佇まい」の島々を紹介しようとしたからだ。この「佇まい」について著者は、「もの言いたげ」だったのだ、と言う。島が口を利くはずはない。だからこれはつまり、著者が「思わず興味を引かれてしまう」そんな雰囲気がそこにはあった、ということだ。なぜ惹かれるのか。これを資料に当たり、考察し、まるで島の問わず語りを集めたかのようにしてカタログ化したのが本書。その対象となったのは、33の「秘島」だ。
「秘島」とはなにか。本書の副題の英語のなかにある「Secret Islands」という意味だ。秘められているわけだから、まず第一の条件として「行けない」ということが挙げられる。完全なる上陸禁止や、上陸が不可能な島ではなくとも、その島まで至る公共交通機関がないこと、これがまず重要だ。どうしても行きたいならば、(航空機や船舶などで)自力でそこまで行くしかない。そのほか、四つの条件がある。「住民がいない」、「リモート感(海のなかにぽつんとあるような感じ)がある」、「孤島感がある(比較的小さな面積であり、周囲に陸地も島もない)」、「知られざる歴史を秘めている」――そして冒頭の「もの言いたげな佇まい」を加えた五つが、本書が規定する「秘島」の条件となる。さっき33と書いたが、じつは33にして33ではない。「存在しない島」すら、ここには掲載されている!からだ。
そのひとつが「中ノ鳥島」。1908年から38年間「だけ」存在した、という、日本の最東端の島だったのだそうだ。帝国主義の時代には、ない島も「ある」ことになったのか。ではいまの「沖の鳥島」はどうなのか。あるいは、あの島この島と、とかく隣り合った国家とは逐一領土問題を抱えてしまう日本という国はなんなのか、とも考えさせられる。日本には7000もの離島がある。それらすべてをカウントすると(したせいで)、排他的経済水域の規模では世界第何位だとか、なんとか、よく言われる。しかしそのなかには、あからさまに「領土のための領土」でしかないものも多い。だから中ノ鳥島のような「日本人の野望の(地理上の)果て」とも言える幻の島だって、著者は見逃さない。そんななか、僕が最も「惹かれた」のは「南硫黄島」だった。これまでに人が暮らした形跡がなく、そもそも、島ぜんたいが急峻な円錐形の山のような形状のため、上陸することすら難しい――という、正真正銘の無人島ぶりがとてもいい。そんなふうにして、とにかく島を紹介し続ける第一部の「ガイド編」を経て、あらゆる手段で秘島を楽しんでみる「実践編」が本書には掲載されている。こちらも楽しめる。
日本列島とは、そもそもが「アイランズ」だ。本書の「秘島」よりはずっと大きいけれども、しかし結局のところは島でしかないところに「本州」と、まるで「Mainland」とでも言いたげな名を付けてしまっただけのこと(ちなみに、本州とは英語では正直に「The Main Island」となるそうだ。ここからさらに直訳するならば「本島」という意味になる)。だから僕の頭のなかでは、日本国の全体像は、少々サイズが大きく、小さな島がやたら多いハワイ諸島のようなイメージなのだ。だから本書のようなスタイルで、逆のことをやってみたらどうだろうか、と想像する。「秘められてはいない」島々、その最たるものとしての列島四島をも、分析し、その「知られざる物語」をまとめてみると、どうなるだろうか。そもそも、こっちの島々は、それをしたくなるほどに「もの言いたげ」なのか、どうか。その問わず語りの声を、だれか、聞くことができるのだろうか。
text by DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「秘島図鑑」
清水浩史・著
(河出書房新社)
1,600円[税抜]