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総合的な作品集としてはこれが初なのだ、と知って驚いた。本書は、キャラクター「アンクルトリス」の生みの親であり、個性的なイラストレーターとして愛されながらも昨年他界した、柳原良平のあらゆる画業をまとめたものだ。ゆえに本書は、シンプルに作品を掲載しただけの画集ではなく、ムックのような形態となっている。柳原がアートを提供した「いろいろな」活動の全域を追っていこうとしたとき、最大限に正解の編集方針がこれだ、というところに、僕も大きく同意する。
たとえば、トリスウイスキーの雑誌広告がある。柳原の絵が商品写真やコピーとともにレイアウトされた様を、本書のなかで確認できる。そして「こうでなければいけない」仕事の一端を、観察することができる。アンクルトリス・グッズが並ぶページもある。柳原の手によるコミックスも収録されている。さらに、僕が最も惹かれたのは、彼のイラストが装丁に仕様された書籍の一覧だ。山口瞳、開高健、遠藤周作は当然として、筒井康隆が「流行作家」として大暴れしていた時期のカヴァーもここに掲載されている。「サラリーマン」の時代。つまり、高度経済成長という名の「長い戦後復興」の真っ只中の、野趣あふれる「オトナのオトコ」ならではの娯楽――そんなものを夢に見ていられた時代の庶民の、「夢のなかにしかない」モダニズムとユーモアが、彼のこの独特なタッチへとつながったのではないか。サントリーに代表される関西財界、だけではなく、文芸やそのほかの文化が、まだこれほどの「一極集中」ではなかった、「いまとはかなり違う」パラレル・ワールドのような日本を垣間見ることができるバラエティ・ブックとして、僕は本書を楽しんだ。オリジナルの「アンクルトリス」が大活躍した時代は、さすがに僕も記憶にないからだ。
著者が愛した「船もの」も多く収録されている。『マッドメン』の時代、日本ではこういう人が活躍していた、という事実が、今日いかに継承されているのだろうか。パラレル・ワールドではないはずの、この現在の日本で。そんなことも考えさせられた。
text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「柳原良平の仕事(玄光社mook)」
柳原良平・著
(玄光社)
2,000円[税抜]