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横長の小さな判型(縦12.8cm、横18.2cm)がかわいらしい。そこにフルカラーで掲載されている、「国産の」古いレコードのジャケット写真の数々が楽しい。セレクションも、並びもいい。そしてなにより、テーマが秀逸なのだ。日本独自とも言える「4曲入り」レコードについて、僕は本書にて蒙を啓かれた。
本書の主役となっているのは、日本独自の規格と言っていい「コンパクト盤」だ。これは7インチ(17cm)のヴァイナル、つまり「シングル盤」と呼ばれるサイズのものに、片面に2曲、合計4曲を収録したもの――なのだが、それでいて「33回転」だというところが、コンパクト盤の特徴なのだという。ご存知のとおり、これが「45回転」であるならば、国際的によくある「EP盤」という規格となる。EPとは「エクステンデット・プレイ」の略だ。元来のシングル盤の基本は、各面に1曲ずつ収録することだから、EPとは「より多い曲数を収録したシングル盤」といったほどの意味となる。それに対して「コンパクト盤」の強みは、「さらに長い収録時間」だ。だから「LPの『コンパクト・サイズ版』」といったニュアンスもある、のだと著者は言う。30cmのサイズ、33回転で、片面に4~5曲、両面で10曲前後が収録されているのが、かつての典型的なLP盤だった。そこから「いい曲だけ」「目立つものだけ」を引き抜いて「4曲だけ」で再構成した、日本独自規格のレコードがこれだった、とも言えるのだそうだ。
「コンパクト盤」という言葉の正確な意味について、僕は本書で初めて知った(これまではやはり、『33回転のEP盤』という認識でしかなかった)。僕の手元にも、もちろん「コンパクト盤」はある。映画音楽のものが多い。つぎに、60年代の洋楽ポピュラー・ソングか、アメリカン・ポップスか......たしかにどれも、企画ものっぽいジャケットなれど、それゆえに、まるで雑誌やフリーペーパーのような、メディアとしての面白味がより強いヴィジュアルとなっている、とも言えるのではないか。それは本書に収録されている数々のジャケットからも感じとることができる。
収録されているレコードのジャンルは、まず歌謡曲、映画音楽、ジャズ/ムード音楽、そして「エレキサウンド」、洋楽ヴォーカル、70年代までの「洋楽ロック」まで......4曲入りレコードが、その「メディアとしての」機能を十全に発揮できた時代の数々の作品が、有名無名問わず取り上げられている。これらはすべて、著者の私的コレクションからの選盤だということで、ゆえに「網羅的でも体系的でもない」と本書のなかで著者は謙遜してもいる。しかし僕は「だから本書は面白い」のだと思う。まるで、知人の家のレコード棚(この場合は、7インチが詰まった箱だろうか)を覗かせてもらったときのような、人肌感覚のあたたかみが、ページを繰るたびに立ちのぼってくるところ――それが本書最大の魅力だ。レコード・ジャケットを集めた本は世に多いが、今後はどんどん、こうした「私的選盤集」が増えていくべきなのではないか、とすら僕は思う。
デザイン、印刷も秀麗なので、本書は贈り物にもいいはずだ。外国人の友人にあげる本として、これほどぴったりな一冊はめずらしいんじゃないか。
text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「【昭和】 幻の4曲入りレコード大全」
石橋春海・著
(有峰書店新社)
1,380円[税抜]