16 6/29 UPDATE
タイトルと表紙からして、きっとサーフカルチャーに身を寄せている人物によるおしゃれで気持ちのよい写真集なのだろうと想像する。ところが本書は、サーフィンを写真の原点としながらも、前述の予想を裏切って圧倒的に純粋なメッセージを投げかける、どちらかといえば"かっこつけない"熱い一冊だ。
通底するテーマは、人間にとってもっとも大切な「水」。スペインとフランスにまたがるバスク地方、南インド、ニューオリンズ、軍艦島、屋久島、福島、白川郷など、著者が旅した軌跡をなぞっていくと、この地球上にはどこにでも私たちの源である「水」の存在があり、偉大な自然はもとより、その土地に根付く多様な文化や人間が持つ「潤い」もまた希望であると気付かされる。目を背けたくなるような現実もある。けれども、私たちの未来はそんなに暗いのだろうか。メッセージはシリアスでありながら、どこかあっけらかんとしてポジティブ。時間も場所もバラバラなイメージの連なりから受けるその印象は、自分の足で世界を周り、旅で得たものを地元に還元してきた著者の身軽さの表れでもあるのだろう。
写真家という枠を超えて活動する志津野雷は、日本や世界各地を旅してつながったローカルや文化に縁のあるもの同士を繋げ、その理解を広げていくアートプロジェクト「CINEMA CARAVAN」を主宰、2010年から毎年、神奈川・逗子海岸で「逗子海岸映画祭」を開催している。自然を感じ、ありのままを受け入れ、未来への希望を持ち続けること。そんなシンプルで一点の曇りもない思いを受け取れば、あなたが見ている日常の風景が明日から変わるかもしれない。
text: chino inoue
「ON THE WATER」
志津野雷 著(青幻舎)
4,500円[税抜]
https://www.amazon.co.jp//dp/4861525586/