09 3/25 UPDATE
やはり恥部なのだろうな、フランスにとってアルジェリア戦争というのは。
130年以上に渡ってフランスの直轄支配に甘んじてきたアルジェリア。しかしついに1954年11月、アルジェリア民族解放戦線(FLN)は完全独立を求めて武装闘争に突入した。これに対し、フランス軍は50万人の正規兵を投入。以後、ド・ゴールの大統領就任によってフランスが独立承認へと転換した'62年までに200万人のフランス兵が送りこまれて2万7千人が死亡。アルジェリア側には30万から60万といわれる犠牲者が出た。
こんなにも明らかな「戦争」を、国はなんと'99年まで頑に「戦争」だと認めるのを拒否した。語ること自体、ほとんどタブーだったという。国の言い分はこうだろう、アルジェリアは「植民地」ではなく、あくまで直轄地つまり「フランス共和国の一部」だった。軍は国家の安泰を覆そうとした無法なゲリラたちを掃討しただけなのだ。
だが戦争まっただなかの当時でさえ、そんなまやかしを信じてなどいないフランス人も多かった。どう考えてもアルジェリア側に理がある。これはれっきとした民族独立闘争であって、フランス軍は植民地主義・帝国主義的のお先棒を担いでいるのだ。......そんな"ヒューマニスティック"な考えを抱きボリス・ヴィアンを愛読するテリアン中尉(ブノワ・マジメル、本作の立案者でもある)が、戦闘が泥沼化して久しい'59年、山岳地域の前線基地に赴任してくるところから物語ははじまる。さっそくゲリラ指導者の行方に関する情報を引き出すべく、ある村へと向かう彼。ここは立ち入り禁止区域の境界にあり、フランス軍とFLN軍の板挟みになっている村だった。部下のドニャック軍曹(アルベール・デュポンテル)が村人を脅すのを制止し、兄がゲリラ軍に参加した少年を庇いもしてその村を去る。しかし数日後、再び訪れた村はFLNの手で無惨にも皆殺しにされていた......。
むしろ"敵"側にシンパシーを抱き、民族独立戦争の大義を疑わなかったテリアン
にとって、これはショックだ。この戦場には白も黒もない。双方が非道な暴力を尽くしているだけだ......しかも自分に比べ、"戦場"の真実を遥かに知っているドニャックの非情だが正確な洞察力も、テリアンの理想家的な自信を苛んでいく......。
ここで本作の原題「内なる敵」に注目しよう。もちろん、これはアルジェリア戦争自体の暗喩である。
まずフランスにとって"直轄地"であったアルジェリアというものの暗喩。つまり
これは同じ国家内で争われる「内戦」でもあったのだ。ちなみにプロローグとして描かれるゲリラ戦は、皮肉なことに "同士討ち"である。
さらに、フランス軍側にも少なからぬアルジェリア人が加わっていたという事実の謂。第一次・第二次大戦では数多くのアルジェリア人が(フランス国籍を認められていないのに)フランス軍として従軍し、ともに闘った過去がある。しかしなかにはめざましい戦功をあげたばかりに民族解放ゲリラから睨まれ、一家皆殺しにされた者さえいるのだ。こうしたキャラクターが巧く物語に取り込まれているのはとても興味深いし、上記のようなゲリラによる同胞の見せしめ的虐殺だけでなく、仏軍による捕虜拷問や無差別殺人そして禁止兵器での大量殺戮さがしっかり描かれるのもこの映画の「歴史認識」だろう。
それに加え、理想主義者テリアンが次第に狂気に苛まれていくばかりでなく、歴戦のドニャックさえ虚無に囚われていくという、無間地獄状態の中での倫理的葛藤も指すはずだ。つまりこの戦争は、それぞれの兵士自身が抱える「内なる闇」との戦いだともいえるわけである。
ま、ここまで書くとガチガチの社会派映画に思えるのだけれど......忘れちゃいけません。監督はホークス/カーペンター系アクション古典主義者、フローラン=エミリオ・シリなのですよ! 『スズメバチ』『ホステージ』でアクション映画通を唸らせた、無駄なイフェクトや派手な編集に頼らぬスタイル、弾のベクトルがはっきり判る(ように見える)生真面目かつ的確なガンファイト設計も相変わらず。彼と同じ「アクション古典主義者」ならジョン・フォードやサミュエル・フラー、さらにはパリへの帰還シーンにはジャック・ドゥミ的な匂いさえ嗅いだりして、さまざまな映画的記憶を呼び覚まされるのも間違いなしだ。なによりもまず「戦争映画」として傑出しているのが素晴らしい!
Text:Milkman Saito
『いのちの戦場』
監督:フローラン=エミリオ・シリ
脚本:パトリック・ロットマン
出演:ブノワ・マジメル、アルベール・デュポンテル、モハメッド・フラッグ
原題:L'ennemi Intime
製作国:2007年フランス映画
上映時間:1時間52分
配給:ツイン
2月28日より、渋谷シアターTSUTAYA、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
© 2007 LES FILMS DU KIOSQUE - SND - FRANCE 2 CINEMA