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フローズン・リバー

フローズン・リバー

極限状態の中で築かれる
民族も価値観も異なる2人の信頼関係

10 2/22 UPDATE

なんともハードボイルドなのだ、この映画。といってもふたりの主人公は女性、かなり貧しい境遇にある子持ち女。レイモンド・チャンドラーは「男はタフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」と書いたが(ま、これは70年代角川映画の宣伝用アレンジだが)、いや別に男じゃなくたって女もまたそうであることを驚くべき"女性的感覚"で示した一作だ。
 
舞台はニューヨーク州最北端、セントローレンス川をはさんでカナダ国境に面する小さな町マシーナ。2人の息子を育てながら1ドル・ショップの店員として働く白人女性レイはその朝、焦りに焦っていた。新居......といっても新しいトレイラーハウスの手付金として今日明日にも払わなければならない大金を、ギャンブル依存症の夫が持ち逃げし雲隠れしてしまったのだ。
 
レイは町に隣接するアメリカ先住民モホーク族の居留地へと向かう。そこは国の特例地区として賭博が認められていて、夫はどうやら入り浸っていたらしい。そこで彼女は偶然、夫の車を運転している女性を見かける。追跡して、そのモホーク族の女性......ライラに問い詰めると「いや盗んだんじゃなくて、長距離バスの停留所にキーをつけたまま置いてあったのを拾ったのよ」なんて言い訳する(笑)。
 
このライラもまたトレイラーハウス暮らし。夫を事故で失ったあと、扶養能力無しと義母に決めつけられて、1歳の娘を奪われている。彼女はいつか娘を取り戻したいとそればかり考えているのだ。それには最低限の稼ぎがなければ。そこでライラはある危ない仕事に手を染めていた。虫が好かないとは思いながら、ライラはやはり金に困っているレイをその仕事に引き入れることにする。なぜなら"盗んだ"車がそれにうってつけだったから。その闇の仕事というのは......
 
国境のセントローレンス川は冬になると一面カチカチに凍りつく。その凍てついた川を車で渡ってカナダ側に行き、そこでアジアからたどり着いた不法移民を後部トランクに詰めてアメリカ側に不法入国させる、という仕事なのだ。もちろん警察に見つかれば牢屋行き、しかし何しろ大金がいちどきに手に入るボロい仕事でもある。

民族も価値観も違うレイとライラはことあるごとに反発しあい言い争う。それもハードボイルドに、センテンス短く、ドライにクールに。しかし、我が子のことが何より大事なのはふたりとも一緒。時には危ない仲介業者相手にピストル向けて渡り合うハメに陥ったりしながらも、共犯関係を重ねるごとに次第にふたりのあいだの溝は狭まっていく。クリスマスの厳寒の夜、言葉の通じないパキスタン人夫婦の"荷物"をテロに使う爆弾だと思い込み、事件に加担するのは嫌だと怯えたレイは(このあたり白人層のアジア人に対する見方が露わで面白い)凍った氷上に捨ててしまった。実はそれ、パキスタン人夫婦の赤ん坊だったのだ!

外は大雪、零下20度、レイとライラは慌てて回収しに戻るが......。またこの間、母親の留守中にレイの長男がウチの凍りついた水道管をバーナーで融かそうとする行動が併行して描かれて、よけいに(無駄な)サスペンスが煽られたりするのだけれど、それもまた良し。それらの「事件」をきっかけに、この映画のすべてが「善意」に基づいていることに気づかされるのである。
 
この演技で2009年のアカデミー主演女優賞にノミネートされたメリッサ・レオも大したもんだが、ライラ役のミスティ・アップルハムも一歩もひけを取らぬ好演。女性ならではの視線を貫きながら、厳寒の荒涼たる風景をクールに捉えてタフなところを見せる監督コートニー・ハントも今後の注目株である。ラストの余韻もちょっとたまりませんよ。

Text:Milkman Saito

『フローズン・リバー』

監督・脚本:コートニー・ハント
出演:メリッサ・レオ、ミスティ・アップハム、チャーリー・マクダーモット、マイケル・オキーフ、マーク・ブーン・Jr.、ジェイ・クレイツ、ディラン・カルソナ、マイケル・スカイ
製作国:2008年アメリカ映画
原題:Frozen River
上映時間:97分
配給:アステア

http://www.astaire.co.jp/frozenriver/

1月30日より、シネマライズ他全国順次ロードショー!