10 2/26 UPDATE
昔から綿々とあるにはあるが、このところ増加しているのが「童貞もの」というジャンルだ。それも中学生や高校生の話じゃなく、アラウンド・サーティになっても童貞を捨てられないような男の話。
この映画の主人公・田西(峯田和伸)は29歳。ま、冒頭からテレクラで知り合った女とすったもんだあったりするから、いわゆる本来的な意味での「童貞」かどうかは疑問だが、とにかく女性との経験がないのだ。そもそも、どうやって女性と向かいあえばいいのかが判らないでいる。
そんな彼が、勤め先の弱小ガチャポン会社の同僚・ちはる(黒川芽以)に恋をした。メルアドも簡単に交換してくれたりするから意外や気があるふうなんだけど、田西はどうすりゃいいか判らない。営業先でよく会う大手ライバル社のイケメン営業マン・青山(松田龍平)にアドバイス受けながらも距離を狭めていった結果......その甲斐あって両思いの手応えを感じるまでに。
しかしドツボはすぐにやってくる。風邪で会社を休んだちはるを見舞いに(コンドーム持参で...下心ミエミエ)彼女のアパートへ。ところがそこには彼女の友人で隣人のソープ嬢・しほ(YOU)がいて......。
といって、しほが悪い女、ってワケじゃない。むしろ男の情緒をよーく理解してる頼りになる姐さん。でも彼女の"些細な親切"が仇となり、田西とちはるの関係は急転する!
しょせん男と女は判り合えない動物だ、と言ってしまえばそれまでだが、いやあ、このちはる、かなぁぁぁり難儀な女。最近でいうと『(500)日のサマー』のサマー嬢が相当の強者だったが、アレよりワケ判らん......というか、無意識的にかどうか知らねぇけど男心をどこまでも弄ぶイヤ~な女なのだ(笑)。サマーさんの場合は男女で彼女の評価に決定的な差がみられるようだが、いや、ちはるの場合、おそらく男も女もそう感じるであろうほど徹底的に、犯罪的なまでに鈍感。
しかし田西はちはるに手ひどい仕打ちを受けてから変化する。今まで何事に対しても本気になれなかった童貞男が、ちはるになり代わっての復讐戦に立ち上がるのだ。......もうこうなると映画の最初に予想できた展開とまるで違ってくる。もはや「女とヤル」なんてのはどうでもよく、それ以前に「ちはるの復讐戦」なんてことも実はどうでもよく、とはいいながら童貞なもんで(笑)下心もあるにはあるが、何よりもまず「俺は生きているのだ」と身体じゅうで感じるために、田西はボクシングの特訓をはじめるのだ。
相手は例のイケメン青山。決闘をサポートするのは、いつもボーッとしてる社長(リリー・フランキー)と昼間から酒呑んでる上司(小林薫)。弱小会社vs大手会社の代理戦争的側面もないではないのだが、そんなヒエラルキー的な対立意識を越え、いろんな意味で"男になろうとする"田西を会社一体になって応援する侠気が美しい(......ちはる以外は)。
田西を演じるのは銀杏BOYZの峯田和伸。すでにもう俳優としての出演作は何本にもなるがハズレなし(DT教祖みうらじゅん原作の高校生童貞モノ『色即ぜねれいしょん』での全共闘くずれっぽいユースホステルのヘルパー役も凄かった)。初主演となる本作でも、デ・ニーロ・モヒカンで決闘に臨むさまがたまらなくカッコ悪いのにたまらなくカッコいい! ドツボ女ちはる役の黒川芽以もポチャドル度増でヤバ度も倍増。その他の出演者もなんだか豪華かつ適役ぞろいなのだが、ギミックに走らず、それぞれクセのあるキャラクターをしっかり掴み取る三浦大輔の演出もなかなか。知る人ぞ知る劇団ポツドールの異才だが、演劇畑出身の映画監督は当たり外れが激しい中、これは出色のデビューではないですかね。
Text:Milkman Saito
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』
監督・脚本:三浦大輔
出演:峯田和伸、黒川芽以、YOU、リリー・フランキー、松田龍平、小林薫ほか
原作:花沢健吾『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(小学館 ビッグスピリッツコミックス刊)
製作国:2009年日本映画
上映時間:1時間54分
配給:ファントム・フィルム
大ヒット上映中!
© 2010花沢健吾/「ボーイズ・オン・ザ・ラン」製作委員会 © 花沢健吾/小学館