10 3/04 UPDATE
いやもうホントに過剰。どこまでやりゃぁ気が済むんだ(笑)。
『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』の天才人形アニメ作家、ヘンリー・セリックの新作長篇アニメーション。ティム・バートンと組んだあの映画は、何がどうトチ狂ったのかすっかりクリスマス・シーズンの定番となってしまったが、とにかく人形を動かしまくることへの執念......といって悪ければヨロコビに満ち満ちたアニメであることを今さら繰り返すこともないだろう。
しかし! である。今回の作品はアレを遥かに凌ぐ。正直見やすさでいうと一歩譲るが、奇怪なイマジネーションがとめどなく暴走していくスリルは数段上だ。しかも全篇3D! そもそも3Dは実写映画よりも、最初っから作りものの世界を指向するアニメーションのほうが効果的であると、『アバター』を観てなお...というか観たからこそ余計に考える僕である。ま、今までにもCGアニメを中心に数多く実例はあるけれども、ストップモーション・アニメーションでここまでの規模のものははじめて。しかも奇怪さ面妖さ美しさを、より強調するよう、隅から隅までほとんど病的なまでに計算されているのが驚きだ。実は2D版はずいぶん早く観ていたのだけれど、さぞ3Dなら凄かろうという構図で埋め尽くされていて(そもそもキャラクターのパースが3D的だ)公開待ち、改めて素晴らしさに圧倒された次第。
セリックならではのブキカワさはタイトルシーンから全開。宙から落ちてきた綿入れ人形が、スチール製の長い指によって腑分けのように解体され再生されるシーンなど、まるでシュヴァンクマイエルのグロテスクな即物性を想起させる。さらに東方教会旋法的(あえていえば新古典主義時代のストラヴィンスキーのような)かつアイリッシュな匂いをたたえたブリュノ・クーレの音楽とも相俟って、どうもアメリカ的ではない(あえていえば東欧的)のである。しかも主人公である少女コララインや、ちょいとギークな友達ワイビーの表情や仕草は、かなり日本アニメ的。日本人イラストレータ上杉忠弘がキャラクター・デザインを任されていることからして、セリックには日本的なテイストの導入が頭にあったのは間違いない。
かなりな郊外に建つ古いアパート、ピンクハウスに引っ越して来たばかりのコララインはご機嫌ななめ。ガーデニングしないガーデニング・ライターのパパとママは段ボールの荷物も開けないまま仕事にかかりっきりで構ってくれないし、できた友達(?)はといえば大家さんちの偏屈な男の子ワイビーだけ。仕方なく新居を探索していると、壁紙の向こうに小さなドアがある。わがまま言ってママに開けてもらったがドアの向こうはレンガで塞がれていた。
その夜、ふいに目覚めたコララインは、一匹のトビネズミがそのドアの隙間に消えていくのを見る。ドアを開けるとレンガはなく、どこかに繋がるトンネルが!そこを抜けると、なんと出てきたのは部屋の中。でもなんだか明るくカラフル、料理しないはずのママがたんまり美味しいもの作ってるし、見事にガーデニングするパパはピアノ・マシーンで陽気に弾き語る。向こうのウチよりずっとハッピー! でも決定的に違うことがあった。ママの目も、パパの目も、なんと黒いボタンだったのだ!
それからコララインはふたつの世界を往復することになるけれど、やがてこの家にまつわる秘密を知ってから、明るかった世界はその凶悪な本性をあらわしはじめる!
いやもう、そこからは一変、映画を支配する邪悪さはまさに暴力的。ボタンの魔女の昆虫趣味はほとんどスタレヴィッチだ(ロシアの先駆的人形アニメ作家)。クライマックスの「もうひとつの世界が崩壊していく」という表現は実は昨今の流行なのだが、天地がバラバラと自壊して塵のような破片が降り注ぎ、真っ白な無へと帰していく表現は過去最恐といっていい。ぜったい子供は泣く。いや僕も泣きそうになったもん(ハッピーエンドに見える最後のショットも実は怖い)。
かといって本作、そこから急にテンション上がるってワケじゃないのだ。ピンクハウスの住民であるロシア人の曲芸師ボビンスキー(訓練しているトビネズミと話せると自称)も、イギリス人の元芸人老婆ミス・スピンクとミス・フォーシブルも造形からして思いっきり妙。そりゃ彼らも「別の世界」では現実より遥かにパワーアップしたヘンタイさを(「ここまでやるか!?」なアニメートで)見せつけてくれるのだけど、いやなに、「現実世界」レべルでさえじゅうぶん狂っているのである。『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』でハロウィンの世界と現実の世界を比べれば、そりゃあ前者の方がカーニバル的に華やかで魅惑的で異常だったけれど、現実の世界もなかなかどうしてかなり歪んでいたのと同じこと。そういや『ナイトメア~』も『モンキーボーン』も、セリックの監督作はいつもこの構図だな。
ともあれこれこそは劇場へ行って観ていただきたい逸品。ま、あの3Dメガネって重いし疲れるし、ずいぶん色彩が落ちるんだけどね......。
Text:Milkman Saito
『コララインとボタンの魔女』
監督・脚本:ヘンリー・セリック
出演:ダコタ・ファニング、テリー・ハッチャー、ジェニファー・ソーンダース、ドーン・フレンチ、キース・デビッド、ジョン・ホッジマン、ロバート・ベイリー・Jr.、イアン・マクシェーン
原題:Coraline
製作国:2009年アメリカ映画
上映時間:100分
配給:ギャガ
大ヒット上映中!
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