10 4/28 UPDATE
いやあ、ユニーク。その一語に尽きる。
もともとは南アフリカ出身のCM監督、ニール・ブロムカンプが2005年に撮った短編 "Alive in Jo'burg"、つまり「ヨハネスブルグで生き延びて」って作品の長篇化企画から始まったという。プロデューサーに名乗り出たのはあのピーター・ジャクソン。「ヨハネスブルグ空中に宇宙難民のUFOが停泊したままになっている」という強烈なビジュアルをテーマに、ブロムカンプとジャクソンはありったけの関心事をブチこんでいったのだろう。レッテルを求めるヒトはこれを「社会派SF」と呼ぶかも知れない。でも、そんなご大層で大上段に構えた言葉を冠するには、あまりにも面白すぎる展開に大昂奮だ。
28年前、南アフリカの首都ヨハネスブルグに巨大なUFOが飛来した。そこに乗っていたのはエビそっくりのエイリアンたち。今も壊れたUFOは空に浮かんだままになっていて、"エビ"たちはその真下の隔離地区「ディストリクト9」の仮説住居に住まわされている。しかし、文化と言葉と生態系の違いはいかんともし難く、激しくエイリアンを嫌悪する住民とのあいだにトラブルが拡大。"エビ"たちを郊外の別の地区へと強制移住させることが決まって(ただし、さらに環境はさらに劣悪)、国際軍事企業MNUがその業務を代行することになる。
現場責任者に任命されたのはヴィカスという白人男性。支局長の娘婿だってだけで、とりたてて目覚ましいところのない平凡な男だ。現場責任者といっても、事情を何も判らぬ"エビ"たちに、立ち退き書類に承認サインを(ムリヤリ)取りつけるのが任務(笑)。しかしその最中、ヴィカスはある掘っ建て小屋で黒い液体の入った小っちゃなスプレーを見つけた。弄ってるうち、間違って自分に噴射しちまったのだが......。
南アフリカの被差別地区、しかも「第9地区」という名称からして、これがアパルトヘイト時代の悪名高き「第6地区」を直截的に意識しているのはあからさますぎるくらい。だが、南ア出身の、かつての差別階級である白人監督がこういう設定で物語ること自体、挑発的だといえるかも知れない(しかもヴィカス君、ヒーロー的要素皆無。どこまでも小市民的で官僚的なヘタレ野郎ぶりには呆れるばかり)。疑似ドキュメント風な体裁も盛り込まれた前半では、実際のヨハネスブルグの住民たち(その多くはかつてアパルトヘイトに遭った黒人だ)に「エイリアンについてどう思うか」と訊ねたインタビュー映像が挟まれるが、この質問上での"エイリアン"とは南アへの不法入国者のこと。なるほど、この映画がサタイアの標的としているのはかつてのアパルトヘイトだけではなく、今も世界で起こる民族紛争、難民差別であることがハッキリする。
こんなにもアクチュアルで、微妙な問題を扱っているにも関わらず、映画はイマジネーションの風呂敷を拡げまくり、どこまでもエンタテインメントに邁進するのが頼もしいところ。しかもテーマの深化とともに、オタク性も一緒に爆発させるのが凄いじゃないか。クライマックスの趣向は優に『アバター』のそれに匹敵する! むしろこれぞ「正統派SF」だといってしまっていいんじゃないかね。
Text:Milkman Saito
『第9地区』
監督・脚本:ニール・ブロムカンプ
出演:シャルト・コプリー、デビッド・ジェームズ、ジェイソン・コープ、バネッサ・ハイウッド
原題:District 9
製作国:2009年アメリカ映画
上映時間:111分
配給:ワーナー・ブラザース映画 × ギャガ
大ヒット上映中!
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