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ローラーガールズ・ダイアリー

ローラーガールズ・ダイアリー

ガールズパワーが繰り広げる
青春グラフィティ

10 6/11 UPDATE

ああ、東京ボンバーズ。僕が子供のころには毎週TVでローラーゲームが放送されていて、みんなけっこう熱中して観ていたものである(ローラースケートのブームまで起こったしね)。
 
そんな栄光もいまいずこ。日本はもちろん、本国アメリカでさえ人気は凋落し、すでに消え去ったかと思っていたが......どうやらそうでもないらしく、ここ10年ほどで復活し、ファン層を増やしてきているようではある。ただしそれも田舎の、低所得者層が中心であろうことは(約30年前のブーム時だってそうだったんだろうが)この映画を観れば察しがつく。
 
だいいちこの映画、始まってしばらくは現在のハナシなのかさえよく判らない。なぜなら舞台となるテキサス州ボディーンというのがマジに田舎町。住民がショッピングに出かける"ちょっと都会"な隣町・オースティンにしたところで、普通の意味ではじゅうぶんな田舎町である。そのオースティンの、何でも屋のような店に、いきなり乱入してくるタトゥーを入れたローラーガールの姿を見てはじめて、どうやらこの作品世界が、スケーター・カルチャーやゴスなどが入りこんだ世界なのだなと理解できるわけだ。つまり、それほどボディーンの町が旧態依然としているってことである。
 
主人公の女子高生、17歳のブリス(『ハード キャンディ』『JUNO』のエレン・ペイジ!)の母親(マーシャ・ゲイ・ハーデン)は、いかにも50年代的な、ローカルの「美人コンテスト(beauty pageant)」に娘を優勝させようと躍起になっている。ブリスはというと、そんな表面的で古くさい美しさとモラリズムにガチガチな母親にうんざりで、一緒にダイナーでバイトしている女友達としょっちゅう「こんな田舎からとっとと出て行きたい!」なんてボヤいている。'60~'70年代の映画で何度も観た記憶のある設定であり風景だ(さらに言えば、やがてブリスの彼氏となるバンドマンの部屋にはアナログ・レコードとカセット・テープしかない)。
 
そんなブリスがオースティンで、荒っぽくて元気がよくて"女らしさ"もへったくれもない「ローラーゲーム」というものの存在を知り、年齢を偽って入団テストに参加する。ところが彼女には天性の才能があって、たちまち頭角を現し......。
 
監督はこれが長篇初となるドリュー・バリモア! いやいや、けっして上手い演出じゃない。コトバ数が多い割になかなか弾けてこないし、青春スポコンものの要素も強いにしてはチンタラしてるし。ちなみにライバル・チームのスターを演じるジュリエット・ルイスや、チームのコーチ役のアンドリュー・ウィルスン(ルーク、オーウェンの兄)など多くはドリューと旧知の間柄であるし、ドリュー自身もチーム内でいちばんのボケ役で助演していることもあり、いささかチームワークがフレンドリーに過ぎて締まりがないことも確か......でもこのユルさがまた憎めないんだよなあ。
 
俳優一家に生を受け、幼年期から女優業を強いられ、十代でドラッグ&アルコールに溺れてボロボロになり、その後も私生活で迷走したあと、突如「清純派コメディエンヌ」として奇跡の復活を果たす。波瀾万丈の人生とはまさに彼女のことであるけれど、ブリスのような田舎育ちの境遇とは縁遠いはず。しかし「親に強いられた人生」「そこから脱出することのもがき」「弾けてからの快感」、そして「ちょいカウンター・カルチャー的なものへの共感」といった、いわばドリューの人生が透けて見えるような要素は確かにあるのだ。自分が上手に経てこられなかった「大人への巣立ち」の行程を、この映画で追体験しているかのようでもある。
 
つまり、ドリュー・バリモアが好きなヒトは、この作品の古典的なものへのこだわりと、ルーズ過ぎるガーリーな空気と、邪念抜きの元気さと、臆面もない家族の和解の構図に,斜め読みや深読みをこめつつ複雑な感慨を抱きながらも愛おしく感じてしまうはずなのだ。ちなみに原題の「Whip It」とは「(馬術のときに)鞭打つ」ってことだけど、ローラーゲームの競技中、味方の選手に腕を掴んで弾みをつけて押し出してもらうことなんだと映画を観ていると判る。仲間たちに後押しされて、ブリスは新たな自分自身の道を拓いていくのだ。
 
そう考えると、なんか健康的だなあドリュー(笑)。そんな健康的なおハナシを語るのに、ローラーゲームなどといううらぶれたモノを持ちだしてくるのがまた彼女らしいわけだけどね。

Text:Milkman Saito

『ローラーガールズ・ダイアリー』

監督:ドリュー・バリモア
脚本:ショウナ・クロス
出演:エレン・ペイジ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、クリステン・ウィグ、ドリュー・バリモア、ジュリエット・ルイス、アリア・ショウカット、イブ、ゾーイ・ベル、アンドリュー・ウィルソン、ランドン・ピッグ、ダニエル・スターン
原題:Whip It
製作国:2009年アメリカ映画
上映時間:112分
配給:ギャガ

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http://roller-girls.gaga.ne.jp/

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