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アウトレイジ

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容赦なきバイオレンスを繰り広げる
正真正銘の「ヤクザ映画」

10 6/25 UPDATE

ご存知のようにカンヌ映画祭コンペティションに堂々選出、受賞はならなかったけれど、観ればそんなの当たり前だよと誰もが思うはず(笑)。むしろ「よくぞノミネートしてくれやがったなこの野郎」なんて、たけし監督の高笑いが聞こえてきそうな容赦なきバイオレンスにカンヌの審美眼を疑うはずだ(爆)。いや、「アンタたち、よほどタケシ・キタノが好きなのねぇ」と呆れちまうかも。
 
冒頭、豪邸の前にずらっと控える黒服の男たちを写し出すカメラ(その多くは無名の三下である)。目の前の豪邸では、関東一円を取り仕切る巨大暴力団「山王会」の総会が行われているのだ。会のあと、直参の池元組組長(國村準)は本家若頭(三浦友和)に呼ばれクギを刺される。山王会の傘下に入りたがっている弱小ヤクザ、村瀬組組長(石橋蓮司)と池元とが繋がりを深めていることを怪しまれ、「村瀬組を締めろ」と命じられたのだ。兄弟の杯を村瀬と交わしているだけでなく、汚い仕事はすべて下に廻す姑息な池元は、その役目を配下の大友組組長(北野武)に押しつけた。
 
偶然かそれとも大友の奸計か(おそらくは前者)、ある大友組組員が村瀬組の仕切るぼったくりバーに引っかかり、多額の飲み代を請求される。ハイハイ払いますからと、その大友組組員が村瀬組組員(塚本高史)を案内したのは、組長はじめ若頭(椎名桔平)や金庫番のキレ者(加瀬亮)が控える大友組の事務所で......。
 
というわけで、古狸の本家会長(北村総一朗)、下克上の時を着実に狙っている池元組若頭(杉本哲太)、大友の大学の先輩で同じボクシング部に所属していたマル暴の汚職刑事(小日向文世)ら、いずれ劣らぬワルどもたちが絡みからまり、血で血を洗う裏切りの物語を繰り広げていく。
 
いやホント、正真正銘の「ヤクザ映画」である。ストーリーだけ取ってみれば、あまた作られてきた実録系映画・Vシネに同種のものがいくらでも見つかる類いのものといえるかも知れない。組織はなによりも自分が大事、子は親の勝手で使い捨てにされるだけ、というヤクザ社会のしがらみが、現代の社会構造・組織構造とシンクロしてみえるというのも、まぁ優れたヤクザ映画にはたいていそうした要素があるのであって、決して本作だけの現象ではない。
 
そんなこと北野武も判っていたはずだ。
 
北野武としては、いわばたけし版『8 1/2』シリーズであった近作三本......『TAKESHI'S』『監督・ばんざい!』『アキレスと亀』から離れ、初期作のトレードマークであったバイオレンスの世界(『監督・ばんざい!』では自己パロディにしてまでその種の映画を"封印"していた)への回帰。いったん捨て去ったものに戻るからには、それまでの固定イメージとはちょいと趣の異なるものにしよう、カンヌやヴェネチアに好かれるようなものとは逆の、徹底したエンタテインメントとして仕立てようという目論見があったに違いない。「寡黙」というトレードマークを裏切り、相手のセリフが終わらぬうちから畳み掛けるように重ねるほど思い切り饒舌に。「間に意味を持たせる」ような演出方法からスピーディでパワフルな娯楽作の方法論へ。
 
しかし、それがかえって北野武のまぎれもない作家性を際立たせることになるのだから面白いものだ。とにかく冒頭のタイトルの入れ込みかたからして、画面のクリアさ、洗練度、編集の小気味良さが尋常ではない。セリフが多いといっても、ふた言目には「バカ野郎」「この野郎」なので、これはもはや「何も言っていない」ことと同じだ(と同時に、登場人物全員を嗤う客観性がある)。ここ数作では特に、ほとんど嫌がらせのように不発しまくっていたギャグも嘘のようにバチバチとキマりまくるが、それがすべて度を過ぎた暴力シーン(突発的だし、観ていて痛い! ああ、カッターナイフ!歯医者!ラーメン屋!)と切っても切れないものになっているんだから恐れ入る。そして無論、エスカレートしていく物語のエンタテインメント性は、今までの北野映画の中で間違いなく最高ランクだ。それでも終盤、大友組の受難劇がドツボに入っていくにつれ、いかにもタケシ・キタノ的な美が静かに炸裂しだすのである。やはり北野武は図抜けた映画作家であった。

Text:Milkman Saito

『アウトレイジ』

監督・脚本:北野 武
出演:ビートたけし、椎名桔平、加瀬亮、三浦友和、國村隼、杉本哲太、塚本高史、中野英雄、石橋蓮司、小日向文世、北村総一朗
製作国:2010年日本映画
上映時間:109分
配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野

全国にて絶賛公開中

www.outrage-movie.jp

©2010『アウトレイジ』製作委員会