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嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

ポップ且つ冷徹に描かれる、
心に傷を負った少年少女の物語

11 2/03 UPDATE

いちおう本読みの端くれとして恥ずべきことなのかも知れないが、いわゆる「ライトノベル」に僕はめっぽう弱い。本屋に平積みされてイヤでも目に入る表紙とタイトル以外は、ほとんど何も知らないといっていい。しかし今の日本文芸で、ライトノベルというジャンルおよびその作家たちが無視できない状況にあるのを知ってはいる。

映画界がこの流れに追従するのは当然で、アニメのみならず実写での映画化もこのところ激増しているのだな。確かにいっとき流行ったケイタイ小説恋愛モノほど、どれもこれも一様にアホらしいものではない気がする。ま、深く知らずに全体を語るのはおこがましいが、昨年、深川栄洋が撮った『半分の月がのぼる空』など、それはそれは素晴らしい出来だった。

「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」も大ヒットしたライトノベルであるそうな。現時点で僕は原作を未読なので、どこがどうアレンジされているのかまったく知らないままにコレを書いているだが、間違いないのは本作が映画として傑作であるということだ。なにか、決定的に新しいもの......観るものを切なくも甘美な幸福感へと導く、映像と言語のリズムを持っている。それは瀬田なつきという映画作家最大の美質である、といえばそれまでだけど。

確かに本作が初のメジャー長篇となる瀬田だが、映画美学校や東京藝術大学大学院時代に作った短・長篇映画でその才能は知られていた。とりわけ女性作家たちの短編映画祭「桃まつり」で上映された『あとのまつり』のテイストに、本作は極めて近しいものがある。まだ若いころのゴダールやトリュフォーやヴァルダが街で撮った映画を想起させる、風通しよく奔放なロケーション撮影、それに有機的に組み合わされるリズミカルな台詞と音。青空高くポンポンと映像と音がキャッチボールされるような清々しい運動性。それらがプロフェッショナルな現場でも清新さを失わぬまま、より高いクオリティで結実しているのだ。デビューで自分の資質をここまで前面に打ち出すことはなかなかできるものではない。

もっとも、物語自体はいままでの瀬田映画にみられた「存在への不安」とか「どこか甘美なノスタルジー」とか、そんな次元じゃ済まされない苛烈なもの。どうやら主人公のみーくん(染谷将太)とまーちゃん(大政絢)は幼少時代、殺人鬼に誘拐・長期監禁された経験を持つらしいのだ。その事件から10年後、その街で連続女性惨殺事件が起きる。まるで事件の勃発を知っていたかのように、「まーちゃんを守る」ため街に舞い戻ってくるみーくん。しかしトラウマと共に生きるブレザー女子高生のまーちゃんもまた自宅に近所の幼い兄弟を誘拐・監禁しちゃってたりして、つまりはぶっ壊れてるわけだ。

10年ぶりの再会にコロコロとじゃれあい、自転車ふたり乗りしながら「すきすきだいすき〜。みーくんとデート〜」などと無邪気に歌うみーくんとまーちゃんはやたら可愛い。大政絢はもちろん非の打ちどころなく美人だが、スクリーン内での動きや台詞回しをここまで自然に、チャーミングに見せるのは演出の才能である。まさにヌーヴェル・ヴァーグ的幸福さだ。

それと同じ風通しのいい風景の中に猟奇がある、白っちゃけた不気味さ。幼少期の回想場面の、ドス黒いまでのホラーぶり。みーくんもまた、他者の同情や思い入れを拒絶するかのように、会話の途中で何度も「嘘だけど」と観客に向けて注釈を入れつづける。その編集リズム自体は極めてポップで、「嘘だけど」のリフレイン(やがてみーくん以外にも伝染する)はこの映画のひとつのリズムを作っているのだが、その軽快なリズムの裏にはどろーんと暗く澱んだものが常にあるのだ。

こうした「暗黒トラウマ」ものはライトノベルのひとつの傾向でもあるだろう。そこに特化すればまったく別の「みーまー映画」が出来ていたに違いない。しかし起用されたのは瀬田なつき。プロデューサーの炯眼である。ミステリとして決着すべき決着を果たしたのちのラストシーンにはまた底抜けの幸福感が待っている。

......でもこの感覚、ずっと前に感じたことがあるぞ。うん、相米慎二『お引越し』だ。そういえばあの映画で、両親の離婚に心を痛める少女を演じていたのが田畑智子。その田畑が本作で、みーくんを猟奇殺人の犯人ではないかと疑う女性刑事を演じている。これは偶然ではないと思うがなあ。

text:Milkman Saito

『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』
監督:瀬田なつき
脚本:瀬田なつき、田中幸子
原作:入間人間
出演:大政絢、染谷将太、田畑智子、鈴木京香他
製作国:2010年日本映画
上映時間:110分
配給:角川映画

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©2011『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』製作委員会