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最近、『コリン』という英国製の、極めて上出来なゾンビ映画が日本で公開された。公称製作費は45ポンド。つまり6000円にも満たないが、まあ、これは洒落みたいなもので、フィルム時代なら最低限絶対に必要なメディア代がタダみたいなモンになったVTR/HD時代だからこそ言ってのけられる宣伝戦略だ。基本、スタッフの自分家からの持ち出し、あるいはヴォランティアで意地でやってのけ、直接経費以外まったく製作費として計上しないのであれば、そんな洒落が成り立たないこともないのがデジタル時代というもの。
この韓国映画『昼間から呑む』の公称製作費は1000万ウォン、つまり100万円弱。これは同じデジタル映画(というので特別視されても困る。今はメジャー作品であろうとほとんどがデジタルメディアだ)にしても、ぐっと真実味を増す額である。ほんと、それくらいで出来たんだろう、大掛かりな要素なんてまったくない、ささやかな映画ではあるから。
しかし面白さはとんでもない。実際、僕はそんな"超低予算"の情報をまったく知らぬまま2年前の映画祭で初めて観たが、カネのことなど微塵も気にならなかった。ただひたすら面白い。作者の才気煥発が、最後までまったく緩みを見せない。とにかく間抜け、踏んだり蹴ったり、世界一情けなく、しかし波瀾万丈の「仕方なく昼間から酒ばっか」なジェットコースター映画(のんびりはしてるけどね)なんである。「酒を呑むこと」が「生きること」と不可分であるのは、韓国映画界知性派の筆頭(であり、酔っ払い映画のパイオニア)ホン・サンスの作品にも顕著だが、それ以上になしくずし的で、妙にすっこ抜けたドランカー映画なのだ。
失恋の痛手を慰められた酒の席で、「明日みんなで旅行に行こう!」と友人たちに煽られた男、ヒョクチン。翌朝、現地集合の約束通りに田舎のバス停に降り立ったが誰も来ない。んな約束、酒席の勢いに決まってるのである。仕方なく、とぼとぼと、とりあえずの宿泊先と目せられた"先輩の経営するペンション"へと歩きはじめるが、一向にそれらしいものが見当たらず、やがてたどり着いたペンションらしきものの主人はやたらと無愛想で......。
そのあとヒョクチンの運命は、彼の意に添わずもあてもなく漂泊を続ける。彼を次から次へと襲うなんとも悲惨な受難の嵐、しかもすべて酒がらみ(ペンションの隣室の女、親切さに理由のあるトラック運転手etc...)は涙なくして笑えない。このオフビート感覚は、いってみれば「韓国版・山下敦弘」の趣なんだけど......おっと、今回の劇場公開にあたって、山下監督&相棒の脚本家・向井康介もコメントを寄せてるみたいですな(http://www.cinemart.co.jp/hirumakara/)。そう、山下&向井コンビの名を一般にまで知らしめた大阪芸大卒業制作映画『どんてん生活』('99)のごとく、映画はカネの多寡とはまったく関係ない。つまりは才能なのだ。
text:Milkman Saito
監督: ノ・ヨンソク
脚本: ノ・ヨンソク
出演: ソン・サムドン、キム・ガンヒ、イ・ラニ、シン・ウンソブ
制作国: 2009年韓国映画
上映時間: 116分
配給: エスピーオー
シネマート新宿他、全国順次ロードショー中
http://www.cinemart.co.jp/hirumakara/
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