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ロジャー・コーマン。それなりのシネフィルもしくは活劇・ホラー・ゲテモノ映画好きなら、彼の名前を知らぬものはまずいないだろう。'50年代から'70年代にかけ、ハリウッドの巨大スタジオが歯牙にもかけなかったお行儀の悪い題材ばかりを超低予算で製作しまくったエクスプロイテーション・ムーヴィ......いや、インディペンデント映画の帝王である(今でも現役)。たとえ50本にも及ぶ彼の監督作を観たことがなくても、コーマンの薫陶を受けて(というかコキ使われて)映画のABCを学んだ、いわゆる「コーマン・フィルム・スクール」の"弟子"たちが、70年代以降のアメリカ映画界を牽引してきたのはもはや映画史上の伝説の域にある。
たとえば、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』('60)をたった2日で撮りあげたとか、『忍者と悪女』('63)のちょっとは金のかかったセットをそのまま使って、スタジオのレンタル期間内にもう一本の別の映画『古城の亡霊』を即席で撮っちまったとか、そんな"武勇伝"の数々はコーマン自身による回想録「私はいかにハリウッドで100本の映画を作り、しかも10セントも損をしなかったか」('90、時は経ち、とっくの昔に300本くらいになってると思うが)にも詳しいし、映画マニアなら誰でも知っているハナシである。
本作はそんなロジャー・コーマンの足跡を追ったドキュメンタリなんだけれど、正直、ここで語られること自体にそれほどの驚きはない。ファンにとってはほとんど新発見もない(けれど、ぜんぜん知らないヒトにとっては驚きの連続、というわけだ)。
だがこの作品が重要かつ画期的なのは、コーマン自身はもちろんのこと、今やハリウッドの超大物へと出世した「フィルム・スクール」の"弟子"たちが「実際に」大挙登場し、御大にまつわる数々の"伝説"について、苦笑いしつつも嬉々として証言しているところにあるだろう。結果、はっきりするのは"伝説"に偽りはなく、時として既知の事実以上にベラボウだった、ってコトである。
共同製作者の弟ジーン・コーマン、もと助手の若妻ジュリー・コーマンはもとより、'50年代~'60年代の「アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ」時代からのつきあいであるジャック・ニコルソンやディック・ミラーはもちろん出てくる。コーマン唯一の本気の映画(笑)『ジ・イントルーダー』については、のちのカーク船長ウィリアム・シャトナーがスター・トレックのポスターに囲まれて証言するし、『ワイルド・エンジェル』『白昼の幻想』から『イージー・ライダー』へとつながるデニス・ホッパー×ピーター・フォンダらのバイカー・サイケデリック・ドラッグ映画の事情も、助手を務めたピーター・ボグダノヴィッチの話も含め周到に語られる。『明日に処刑を...』で好機を得たマーティン・スコセイジ(シネフィルとしてそれ以前のコーマン映画も語る語る)や故デイヴィッド・キャラダインも登場する。
'70年代に入り「ニュー・ワールド・ピクチャーズ」を創設してからは存命者も多いのでいっぱい出てくる。ロバート・デ・ニーロ、ジョナサン・デミ、ロン・ハワード、ジョー・ダンテ、アラン・アーカッシュ、ジョン・セイルズ、メアリー・ウォロノフetc......。'80年代に「コンコード・ニューホライズン」を設立してから世話になったポール・W・S・アンダーソンやペネロープ・スフィーリス、単に熱狂的ファンであったクエンティン・タランティーノ(アカデミー功労賞授賞式での「ワイルドでウィアードでクールでクレイジーな映画をありがとう!」の祝辞は拍手だ)やイーライ・ロス......。
よくもここまで、な凄い面々が、いってみれば全員「コーマン・フィルム・スクール」の卒業生なのだ。そういえばロジャー・コーマンという人物、デ・ニーロもスコセイジも言うように、「イギリスの教授のように雄弁で上品」な校長先生風の物腰ではある。だがコーマンは自らのことをこんな風に語るのだ、「冷静に見えるだろうけど、心の中は煮えたぎる地獄のようなものさ」。......そんな業の深いオトコの生きざまをとくと観るがいい。実はコーマンにいちばん心酔してる奴、ジャック・ニコルソンの涙は本物だぜ。
text: Milkman Saito
『コーマン帝国』
監督・製作:アレックス・ステイプルトン
編集: ビクター・リビングストン、フィリップ・オーウェンズ
音楽: エール
撮影監督: パトリック・シンプソン
出演: ロジャー・コーマン、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョナサン・デミ、ピーター・フォンダ、ブルース・ダーン、ポール・W・S・アンダーソン、クエンティン・タランティーノ、デヴィッド・キャラダイン、ピーター・ボグダノヴィッチ、ジョン・セイルズ、イーライ・ロス
2011年/アメリカ/カラー/91min/ビスタ/デジタル
原題: Corman's World: Exploits of a Hollywood Rebel
提供: キングレコード
配給: ビーズインターナショナル
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