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オタク、というにはほど遠いけれど、僕は相当な宇宙映像好きだ。勝手に「アポロもの」などと云っているが、つまりロケット発射にまつわる記録フィルムにとりわけ萌えてしまう。天体的なものももちろん守備範囲だけど、それ以上に管制室とか制御卓とか、なんか知らんがスイッチがたくさんあるような図像にとくべつ反応してしまうのであるな。
「宇宙兄弟」というコミックがあるのはだいぶ前から知っていた。ただズボラにも読んではいなかったのだが、この映画化を観て俄然興味を惹かれたね。ここでは「宇宙」と確かなリアリティをもって対峙するアストロノートの視点と、「宇宙」にあこがれ夢見る"宇宙ファン(≒天文学ファン)"の視点が並行して描かれているからだ。よりどちらに傾斜しているかは人それぞれとして、宇宙好きなら双方に関心があるはずで、まさにそんな宇宙三昧のオイシさを疑似体験させてくれるってこと。
小さいころから科学好きで、ニュータウン裏の原っぱへ夜な夜な自然観察に繰り出していた兄弟、兄のムッタと弟のヒビト。ある晩、空で妙な動きをみせ、月へと吸い込まれていくように消えた謎の光体を目撃したのをきっかけに、兄弟は「宇宙」にのめりこんでいく。
それから20年ほど経った2025年。NASAの月面基地建設ミッションに加わるアストロノートになったのは弟のヒビト(岡田将生)。30過ぎた兄のムッタ(小栗旬)はカー・デザイナーの職を上司への頭突き一発でクビになりプー太郎生活に。そんな話を漏れ聞いた弟ヒビトは、小さいころに交わした兄弟の誓い......「宇宙へ行く!」を思い出せるように、JAXAの宇宙飛行士選抜試験に兄を登録するのだ。
とうぜんメインになるのは、われわれ凡人に近い"宇宙ファン"のムッタのほうだ。忘れかけていた少年期の夢を甦らせ、天性のアストロノート的適性を(一部のJAXA職員に)認められ、最終試験のグレイドまでたどり着く。それは閉鎖されたボックスのなかで選ばれた6名が2週間、与えられた課題をこなしていくという命題。その各人が個性的、いかにもクリシェではあるものの、こういう場合はそれぞれはっきりしたキャラクターであるほうがハナシは盛り上がる。ムッタと気が合う真摯な好青年(ミュージカル・スターの井上芳雄)、皮肉屋で冷徹な飛行機パイロット(新井浩文)、思ったことをダイレクトに口にしてしまう関西人(濱田岳)、元JAXA職員で瞑想好きな中年男(塩見三省)、ムッタも一目惚れしてしまったタフな女医(麻生久美子)。
キャスティングだけみてもチカラ入ってるのが判るだろう。適性審査はもちろん、本人たちの想像以上に意地悪だ。その煩悶のまっただなか、蒼天に浮かぶ月の上に弟ヒビトはすでに立っている。しかも探査機の事故で、深いクレーターの底に落ち込んで......。
監督は森義隆。高校野球のベンチにも入れず、世俗的煩悩にうだうだしながらも野球の魅力から逃れられないふたりの補欠部員の物語『ひゃくはち』('08)を撮った男であるから、なるほど、作家としてのスジは通っているのだ。ウェルメイドなストーリーテリングにもソツがないしね(これって、案外難しいモノなんだよ)。空気感のない月面の光景、メカニックの描写も及第点(管制室のハードな理系ディテイルはちょっと甘いが)。宇宙ファンとしては、壮麗なアースライトをあいだに挟み、地球上の兄と月面の弟とが交感するシーンなどちょいとウルッときてしまう。そんな爽やかさは、小栗&岡田という絶妙のキャスティングも大いに関係している。とりわけ小栗旬、いい味出してます。
ちなみに映画を観た後でコミックも読んだのだが、エッセンスを実に忠実に写し取った映画化であることが判る。でもまだ進行中の物語であり、今回はその約半分まで。ぜひ同じスタッフ・キャストでの続編を期待したいところだ。
あ、実際のアポロ11号飛行士、バズ・オルドリンの好演も要チェック。ちょっとマイケル・ダグラスみたいな貫禄である。
text: Milkman Saito
宇宙兄弟
監督: 森 義隆
原作: 小山宙哉「宇宙兄弟」(講談社『モーニング』連載)
脚本: 大森美香
キャスト: 小栗旬、岡田将生、麻生久美子、濱田岳、新井浩文、井上芳雄、塩見三省、堤真一
音楽: 服部隆之
製作統括: 塚田泰浩
企画・プロデュース: 川村元気、臼井央
上映時間: 2時間9分/ビスタビジョン/ドルビーSRD
製作: 「宇宙兄弟」製作委員会
製作プロダクション: 東宝映画
全国東宝系にて公開中
©2012「宇宙兄弟」製作委員会