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アメリカが日本以上の学歴社会であるのは周知の事実として、この映画に描かれるようなケースはなんとも乱暴で驚くばかり。「君は大学を出てないから今後、出世の見込みなし」と、勤務先のスーパーマーケットをあっさりリストラされた元海兵隊員ラリー・クラウン(トム・ハンクス)。一介のバツイチ五十男にそんなに簡単に就職先は見つからない。そんなとき、万年ガレージセールやってる隣人(セドリック・ジ・エンタテイナー)の店でみつけたのがコミュニティ・カレッジ(日本でいうなら短大みたいなもの)のパンフレット。思い立ったラリーは入学を決意する......。
『すべてをあなたに』('96)以来のハンクス監督作(脚本は『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』のニア・ヴァルダロスとの共作)となるこの映画、そもそも高校卒業後にコミュニティ・カレッジへ進んだ彼自身の思い出が製作動機なんだとか。さまざまな経歴、さまざまな年代の"同級生"と友達になったことが大きな経験になったらしい。でもそれって'70年代半ばのハナシでしょ?とツッコミたくもなるのであるが、まあ、ハンクスが体験したのと同様のことが今でもあり得るということだろう。しかし現代が舞台の本作でも、ヤングたちと一緒にバイクならぬスクーター・ギャングしちゃったりするのがなんだかオカシいんだよね。なんせ『すべてをあなたに』も'60年代のグループサウンズ映画だったし、やはり彼は自分の青春期、とりわけポップ・カルチャーに創造の源泉があるとみた (しかもオープニング&エンディングはエレクトリック・ライト・オーケストラ!)
ラリー・クラウンはとりあえず、スピーチ術と経済学を受講することにする。スピーチ・クラスの担当はジュリア・ロバーツ。自称作家だが稼ぎもないのに巨乳サイト三昧の夫に不満タラタラ、酒に逃げてるヤル気のない教師。ま、そうなると中年男女ハンクスとジュリアのラブコメに発展するだろうと誰もが想像するだろうし決して間違いじゃないんだけど、年齢的な焦りやら若さへの嫉妬やらがモヤッと絡み、ストレートなラブコメとはどうも言いかねる。冴えないバツイチ五十男ハンクスのファッションやインテリアを仲間と一緒に改造し、例のスクーター仲間にも誘い入れる、いわば悪意なきファム・ファタル(新人ググ・バサ・ロー。可愛い)の存在もあるものの、ふたりのあいだにはどうやら下心さえない。普通のハリウッド的作劇術なら、そこんとこもうちょっとややこしくするだろうに、この登場人物たちはなんとも分をわきまえているのだ。
そう、この映画のチャームは、お決まりの展開をちょいと外したところにこそある。あからさまにドラマティックな展開を嫌い、ナチュラルな感情の動きやスマートさを指向するところにハンクスの指向......というか嗜好が見てとれるじゃないか。例えば『すべてをあなたに』に続き、タイトル・デザインの巨匠パブロ・フェロ(『華麗なる賭け』や『博士の異常な愛情』の)を迎えるセンスがすべてを象徴している気がするんだよね。たとえばメイン・タイトル、スーパーマーケットの制服とクレジットが白ヌキになる矩形が同じ赤だったりして。だから俳優として以上に、作家としてのハンクスに僕は好感を持つわけだ。
ちなみに経済学の教師はジョージ武井。もちろんスター・トレックネタもあります。
text: Mlkman Saito
「幸せの教室」
監督: トム・ハンクス
製作: トム・ハンクス、ゲイリー・ゴーツマン
製作総指揮: フィリップ・ルースロ、スティーブ・シェアシアン、ジェブ・ブロディ、ファブリス・ジャンフェルミ、デビッド・コートスワース
脚本: トム・ハンクス、ニア・バルダロス
キャスト: トム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ、ブライアン・クランストン、セドリック・ジ・エンターテイナー、タラジ・P・ヘンソン、ググ・バサ=ロー、ウィルマー・バルデラマ、パム・グリア
原題: Larry Crowne
製作国: 2011年アメリカ映画
配給: ディズニー
公式サイト: http://kyo-shitsu.jp/
全国ロードショー中
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