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ファミリー・ツリー

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ハワイで暮らす一家に起こったドラマとは

12 6/05 UPDATE

なんたってこれはアレクザンダー・ペイン監督5年ぶりの新作なのである。といっても前作はオムニバス『パリ、ジュテーム』のトリを飾った掌編 (でも傑作)であるから、長編はなんと『サイドウェイ』以来7年ぶり。今年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など5部門にノミネート。結果、脚色賞を受賞したけれど、なんの、作品賞取ってもぜんぜんよかった。少なくとも主演男優賞はジョージ・クルーニーにあげるべきでしょ、な快作だ。

舞台はハワイ。青い海と青い空、大自然に囲まれたこの世の楽園。でも映画は主人公、マット・キング(クルーニー)が吐き散らす文句タラタラの独白から始まる。「ハワイ暮らしはパラダイスだろ、ってみんな言う。サーフィンしまくってるんだろ、って羨ましがる。とんでもない! サーフィンなんて15年もしていない!」。なるほど、シニカルな人間観察が持ち味のペイン作品らしく、ハワイを舞台にちっとも楽園的でも楽天的でもない話が展開する。マットの身には、そんなふうにボヤキたくもなる事態が襲いかかっていたのだ。

最大の衝撃は妻のエリザベス。ジェットボートのレースで事故にあい、意識不明の昏睡状態となってしまったのだ。悲しみに暮れながらも、男手ひとつでふたりの娘の面倒をみなければならなくなり、それまで仕事に明け暮れていたマットは良き夫、理想の父親になろうと誓うのだ。

でも10歳になる次女は、事故のショックから精神不安定に。全寮制の高校に入っている長女のアレックスのやっかいさはそれどころじゃない。「なぜ彼女たちは自暴自棄になるんだ?」マットは娘たちをどう扱っていいのか見当もつかずワラワラするばかり。 さらにマットには、もうひとつ大きな課題があった。彼はカメハメハ大王の末裔にあたるのだが、先祖から受け継いだカウアイ島の広大な土地を売却しようと考えていた。しかし一族の意見をまとめ、同意を取るだけでもう大変。

追い打ちをかけるようにマットの心をぐちゃぐちゃにする決定的な真実が発覚する。長女のアレックスがなんと......「ママは浮気してたんだよ」と突然の告白! 激昂し、親友夫妻を問い詰めると、彼らは妻が本気で離婚を考えていたことまで知っていた。さっきまでの哀惜の念などどこへやら、まだ昏睡状態にある妻への怒りに震えながらも、マットは彼女のために浮気相手のスピアーに会って、現状を伝えようと決意する。

寝取られ男のマヌケさ全開で、何かにつけてどたどた走りまわるハメになるジョージ・クルーニー、これを快演と評さずして何とする。さらに長女アレックス役のシャイリーン・ウッドリーはスター性抜群、これから頭角を現していくだろう。また、なぜか家族の赴くところにずっと同道する彼女の恋人未満の友達シド役、ニック・クラウズ! 空気が読めないにもホドがある大ボケキャラだが、最後にはどうにも居なくちゃならない存在になる。こういうどうでもいいようにみえる奴がとってもイイのだ。

邦題の「ファミリー・ツリー」も原題の「ザ・ディセンダンツ」も、つまり「家系」「家系図」という意味。家族の危難を体験することで、逆に絆を修復する、とかルーツを再確認する、とか、そういった建設的なイメージを強く感じるだろう。でも思い出してもらいたい、あの『アバウト・シュミット』のラスト・シーンを。アレクザンダー・ペインは稀代の二枚舌遣いなのだ! つまり、感動したい素直なヒトにはきちんと涙を与え、物事を​ハスから眺めたがるヒネクレ者にはきちんと苦笑を与えるワザを心得てる、っていうこと。そんな名人芸は今回も冴えわたっている。でも今回のラスト​・シーンはちょいと趣が異なるかな。誰もが心地よい穏やかさに導かれ、幸せになれるはずだ、おそらく(笑)。

text: Milkman Saito

ファミリー・ツリー
監督: アレクサンダー・ペイン
製作: アレクサンダー・ペイン、ジム・テイラー、ジム・バーク
脚本: アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ
キャスト: ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー、アマラ・ミラー、ニック・クラウス、ボー・ブリッジス、ジュディ・グリア
原作: カウイ・ハート・ヘミングス
原題: The Descendants
製作国: 2011年アメリカ映画
上映時間: 115分
配給: 20世紀フォックス映画

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© 2011 Twentieth Century Fox
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