12 7/12 UPDATE
チョウ・ユンファ、チアン・ウェン、グォ・ヨウ。中国語圏の映画好きなら、この三人が結集して丁丁発止やる映画となれば、そんなもん面白いに決まってると観る前からウキウキするに違いない。原題もずばり「譲子弾飛」=「弾丸をぶっ飛ばせ」と威勢もすこぶるいいことだし。
チョウ・ユンファはいうまでもなく、'80年代に興った香港ニューウェイヴを支えた大スター。いっときはハリウッドでイマイチ居場所を見つけられなかったものの、再び中国語映画に出始めてからは、東と西の双方を股にかけ活躍するようになった「亜州影帝」だ。
チアン・ウェンもまた'80年代中国ニューウェイヴの申し子。張藝謀作品のなかでも一番トンガった『紅いコーリャン』『キープ・クール』、田壮壮の『清朝最後の宦官/李蓮英』等々、そのハゲ頭と硬軟併せ持つ圧倒的な存在感はいまなお中国一だ。
グォ・ヨウもまだ骨のあった時代の張藝謀作品『活きる』で頭角を現し、『ハッピー・フューネラル』そして傑作『狙った恋の落とし方。』など現代中国映画界きってのヒットメイカー、フォン・シャオガン(本作冒頭に出てます)作品で天性の喜劇的センスを爆発させている異貌の名優。
こんな強力な面構え+実力ありあまる役者が組んだうえ、監督はといえば......この三人のうちのひとり、チアン・ウェンなのである!
彼は俳優業にとどまらず、'94年には『太陽の少年』で監督業に進出。『鬼が来た!』('00)では第二次大戦末期、日本兵(思えば香川照之は、俳優としてこれで完全に化けたのだ)を匿うことになってしまった中国僻村でのドタバタを黒い笑いづくしで描いて驚嘆させた、真に才人の名にふさわしい監督だ。さらに言えば、日本では未公開のままだけど(上映は東京国際映画祭でのみ) '07年に『陽もまた昇る』という傑作を撮っている。壮大で難解(筋を求めるとね)かつパワフルでエロティック、最盛期のクストリッツァを彷彿とさせ、ある意味超えたといって過言ではない真にマジック・リアリズム的な大冒険作なのだが、とうぜん興業は大失敗。......それがなんと、本作『さらば~』では中国国内歴代No.1の興行収入を叩き出したってんだから驚きじゃないか! で、チアン・ウェン、もしかして日和った?とちょっとでも考えた俺はバカだった。呵呵大笑、もうやりたい放題である。
ときは1920年。広大な大地を驀進する列車。乗っているのは任地で私腹を肥やすべく県令職を金で買った詐欺師(グォ・ヨウ)とその妻(カリーナ・ラウ)だ。それを襲撃したのがチアン・ウェン率いる匪賊たち。『隠し砦の三悪人』よろしく馬を駆り、マカロニ・ウェスタンのごとく力任せに突撃して、列車まるごと転覆させる。
なんとか命拾いしたグォ・ヨウはチアン・ウェン頭領に、「私は書記になるから、あなたが県令となって、このまま赴任しボロ儲けしよう」と持ちかける。しかし任地というのが、人身売買(鉄道工夫として領民を米国に売りつけてる!)と阿片で儲けまくってる地主(チョウ・ユンファ)の専制的支配下にある土地。もうなんとしてでもコイツの富を奪おうと決心した匪賊&詐欺師コンビは地主に全面対決を仕掛けていく......。
けっきょく三人とも悪人、って構造はまさに『続・夕陽のガンマン』ぽい (ということは、韓国のキム・ジウン監督作『グッド・バッド・ウィアード』を想起する人も多いだろう)。しかも先に挙げた「隠し砦」だけじゃなく、『七人の侍』をパロったファンファーレは鳴り響くし、『パットン大戦車軍団』の印象的なトップ・シーンもおちょくられたりするブラック・コメディなのだ。
いっときたりとも落ち着かず、先がまったく読めない物語。ずーっと持続するハイテンション。美しくも歌舞きまくったキャメラに轟音効果音、常軌を逸したイメージが連続する132分。『鬼が来た!』をはるかに上回る過剰な表現にのけぞっちまうヒトも多いかも(でも『陽もまた昇る』を観てると、その延長線上にあることは明らかなんだが。久石譲のテーマ曲も流用されてるし)。
しかも台詞の端々に、中国政府への風刺と皮肉が隠されてる(らしい)というのは中国公開時から知られたこと。その真偽は中国語が判らない僕に断じようもないが、クライマックスでシュルレアリスティックに展開される"革命いじり"の戯画だけみても、チアン・ウェンが決して"おとなしく"アクション映画を作ってるのでないことは明らかだ。これに観客が殺到したというのはまったくもって健康的、当局も内心穏やかでいられないだろう。
ま、われわれとしてみれば、そんなウラ設定は判らんくらいでちょうどいい。ただでさえゲップが出るほど濃い~んだから!!
text: Milkman Saito
さらば復讐の狼たちよ
監督:チアン・ウェン
原作:馬識途「夜譚十記」
撮影監督:チャオ・フェイ
音楽:久石譲
出演:チョウ・ユンファ/チアン・ウェン/グォ・ヨウ/カリーナ・ラウ/チェン・クン/フー・ジュン/チョウ・ユン
2010/中国/132分/シネマスコープ/ドルビーデジタル/北京語
提供:アミューズソフト
配給:ファントム・フィルム
TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー中
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