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主人公クリスが覗くライフルスコープ。その視野はとても狭い。
映り込んだ人間を撃つか、見逃すか、判断は二つに一つ。その狭さ、選択肢の極少さこそが、クリスにとっての戦場である。
敵を見つけ、殺す。ためらいはない。なぜなら相手は"悪"だから。
シンプルなまでの行動原理とアクション。
テキサス州に育った善良で力持ちのカウボーイ、クリス・カイルは軍隊に志願し、イラク戦争に4度にわたり出征。狙撃手として、米軍史上最多の160人を射殺し、イラクの反政府武装勢力からは「ラマディの悪魔」と呼ばれるまでになる。
同時に、クリスの精神は徐々に変調をきたしていく。
他のイーストウッド映画がそうであるように、輪郭はクッキリしているのに、描かれている内容は重層的だ。
クリスをたんに"英雄"として見るならば、本作は、先住民などに対して勧善懲悪の構図をとる初期西部劇のように感じられるかもしれない。あるいは、賞金首となったクリスを狙う武装勢力の狙撃手ムスタファとの対決は、マカロニ・ウエスタンのごときガンアクションのようでもある。
しかし、それらの西部劇との決定的な違いは、撃ち合いにおける果てしない距離だろう。
クリスとムスタファは、後者にも家庭のあることが示唆されることで、一瞬パースペクティブをともにするようにも見えるが、実際は異なる"普遍"を生きている。
そして、クリスのスコープは、相手の世界を限定的にしか切り取らない。
「大量破壊兵器の調査」----そんなハリボテの大義によりアメリカが引き起こした戦争でもある。その背後にある疑惑も、思惑も、やはりクリスのスコープには映らない。
ただただ"敵"を射殺し、壊れていくクリスにとって、引き金は軽かったのか? 重かったのか?
『世界にひとつのプレイブック』での神経過敏さをよりディープにしたようなブラッドリー・クーパーの演技がすばらしい。その表情は静かだが、常に激しく相反する感情を堪えているのだ。
スコープに映る以外の世界を失ってしまったように、帰国をしても、自宅に戻れないクリス。彼の魂は、いったいどこへ帰るのだろう。
text: Joe Kowloon
『アメリカン・スナイパー』
監督:クリント・イーストウッド
脚本;ジェイソン・ホール
製作:クリント・イーストウッド、ロバート・ローレンツ、アンドリュー・ラザー
ブラッドリー・クーパー
キャスト:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス
配給:ワーナー・ブラザース映画
2月21日(土)新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー他全国ロードショー
http://wwws.warnerbros.co.jp/americansniper/
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