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神々のたそがれ

神々のたそがれ

すべてが初めて見る画面という、異形の映画。

15 3/16 UPDATE

最初にお断りしておくと、これは観客を選ぶ作品だ。始まってしばらくして「全然意味わかんないし、退屈」と思ったなら、それがモノクロームのまま3時間続くのみだ。しかし、「何コレ、大変なことになってて面白い!」と思ったなら、あなたの頭のチャンネルは、監督のアレクセイ・ゲルマンの波長とバチッ! と合致して、一瞬も見逃したくないほど、画面を隅々までなめまわすように見ることになる。......まるで感性の丁半博打みたいだ。

原作はロシアのストルガツキー兄弟のSF小説『神様はつらい』。物語は地球によく似た惑星の都市アルカナルに、地球から調査団が派遣される。アルカナルの文化は中世ルネッサンス期に似ており、知識人狩りが行われる退行さえ見られる。地球から来たドン・ルマータは、この惑星では「異教神の落とし子」として崇められ、恐れられている。だが彼はアルカナルで二大勢力のぶつかり合いが起こっても、なんの発言権もない。

原作小説が1964年に発行されてすぐ、ゲルマンは構想を始め脚本に着手する。しかしソ連からロシアへと変わる政治の激しい波に翻弄され、撮影を開始できたのは2000年だった。ところがその間にゲルマンの脳で熟成されてしまったせいか、撮影は6年の歳月を費やし、映画の密度はとんでもないことになった。

3時間、ストーリーはゆったりと進むものの、画面上に写っている情報量は半端ない。絶え間なく隅々まで、あらゆることがひたすら同時に起こり、最近のガチャガチャしたハリウッド映画とは違って、カメラは一台で緩慢に進んでいくだけなのに、なぜか静謐さとは程遠い騒然とした状態が続く。3時間、みっちり埋め尽くすカオス。

ルマータが室内にいるだけでも、水の滴り、火、ガチャガチャする小道具、首に枷をつけられた者、巨体で尻や胸を露出した女、飛び交う鶏、不思議そうにカメラを覗く奇異な風貌の男など、画面の奥まで演出が行き渡る。一体、このカオスな画面は、1秒ごとにすべてが着想通り仕込まれたものなのだろうか。それも、それぞれどんな理由で? ワンカット内で相当段取りを組まないと不可能なシーンなどもあるが、3時間分の絵コンテは、どうなっているんだろう......?
カメラも気まぐれにルマータの周りを回ったり、彼の後を追いかけたり、不意に立ち止まって、階段に腰掛け顔へ泥を塗りたくる男を眺めたりする。登場する人々の量も膨大だが、けっこうな人数が、首を傾げながらカメラを覗き込んで通り過ぎていく。ルマータもたびたび、カメラに話しかけたり、「行け!」と追い払ったりもする。これは、一体誰の目線なのか。

ヒエロニムス・ボッシュの絵画『快楽の園』を思い浮かべて欲しい。この映画は、あの「地獄」や「快楽の園」の中を、カメラがぬって歩くような作品である。一度歩いた道に戻ったり、演出の繰り返しはない。3時間すべてが初めて見る画面という、とんでもないものに立ち会うことになる異形の映画だ。

text: Yaeko Mana

『神々のたそがれ』
監督:アレクセイ・ゲルマン
原作:ストルガツキー兄弟
脚本:アレクセイ・ゲルマン、スヴェトラーナ・カルマリータ
音楽:ヴィクトル・レーベデフ
キャスト:レオニード・ヤルモルニク/アレクサンドル・チュトゥコ/ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリーロ
配給:アイ・ヴィー・シー

2015年3月21日(土)〜ユーロスペース(東京)他、全国順次ロードショー
http://www.ivc-tokyo.co.jp/kamigami/