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カフェ・ド・フロール

カフェ・ド・フロール

奇抜さと超克の必然がないまぜになったミステリアスな作品。

15 3/26 UPDATE

カナダの気鋭、ジャン=マルク・ヴァレ監督による2011年度の作品。ヴァレは『ダラス・バイヤーズクラブ』(13年)で、マシュー・マコノヒーに主演男優賞をもたらしたほか、アカデミー賞で3冠に輝いた世界の注目を受ける監督だ。最新作のリース・ウィザースプーン主演『ワイルド(原題)』(14年)も、惜しくも受賞は逃したがアカデミー賞ノミネートを果たしている。

現在もっともイキのいい監督の、11年度の作品がこれまで公開を見送られてきたのは、奇妙な構成と、非常にデリケートなテーマを扱っているためかもしれない。1969年、フランスで若い夫婦が子どもを授かるが、出産後にダウン症であることがわかる。夫は子育ての難しさから家を出てしまい、母のジャクリーヌ(ヴァネッサ・パラディ)はシングルマザーとなって、息子ローランに愛情をそそぐ。彼女の子育てに対する必死の情熱は、周囲の反対を押し切って、健常者と同じ学校に進学させるなど狂おしくさえあるが、ヴァネッサ・パラディの質素な佇まいによって、ただひたむきないじらしい姿に見える。何気ない母子の日常を、ニューシネマのような断片的な編集で見せる語り方も、観客とつかず離れずの距離を保つ。

それに対して、映画はもうひとつの物語を並列に描く。現代のモントリオールに住む人気DJアントワーヌは、美しい妻ローズと再婚し、子どもを隔週ずつ預かるため元妻のキャロルと顔を合わせる。二人はティーンエイジャーの頃からソウルメイトだと信じ、愛し合って結婚したが、中年になってからアントワーヌがローズに惹かれたため、離婚に至っていた。

"ソウルメイト"という概念の危うさ。普通に愛し合って結婚した夫婦ですら、浮気や離婚が起こるのに、魂の片割れが不在となる発想は、足元からぐらつくような不穏さをもたらす。キャロルは「アントワーヌのソウルメイトは自分ではなく、ローズだった」と考え、夢遊病の発作にさいなまれるようになる。彼女が真夜中にあげる咆哮は、強烈な喪失感がむき出しとなって恐ろしい。そして69年に始まる母子の物語でも、学校に入ったローランは、転入してきた同じダウン症の障害を抱える少女ヴェラと、魂の双生児のようになっていく。

時を超えた二つの物語が、奇妙な絡まりあい方をして不思議な着地をみる映画である。けれども誰しもが抱える喪失感といった、どうにもならない現実を乗り越えていく過程の話でもあり、奇抜さと超克の必然がないまぜになったミステリアスな作品だ。

text: Yaeko Mana

『カフェ・ド・フロール』
監督・脚本:ジャン=マルク・ヴァレ
撮影:ピエール・コットロー
キャスト:ヴァネッサ・パラディ/ケヴィン・パラン/エレーヌ・フローラン/エヴリーヌ・ブロシュ/マラン・ゲリエ
配給:ファインフィルムズ

3/28(土)より恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
http://www.finefilms.co.jp/cafe/

© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films