15 11/05 UPDATE
英語タイトルの"The Royal Tailor"がグッとくる。尚衣院とは、朝鮮王室の衣類を仕立てる部署であり、別名"宮殿の宝箱"と呼ばれたという。貴族による世襲制が主だった官僚のなかで、尚衣院では刺繍やデザイン、仕立ての上手さによって王から贔屓にされ、賤民から両班という官僚職にまで上りつめることの出来た、唯一の場だった。
尚衣院のドルソク(ハン・ソッキュ)は、三代の王に仕えたことが認められ、6ヶ月後には両班となることが約束されていた。今の王(ユ・ヨンソク)は先代王の弟だ。
その王の大事な衣服を、下女が誤って燃やしてしまった王妃(パク・シネ)は、ドルソクに一夜で修繕を頼むが、さすがにそれは無理だとドルソクは断る。すると王妃は、酔客の相手をする妓女たちの服のデザインで、巷で話題のゴンジン(コ・ス)に王宮入りを命じる。
ゴンジンは生まれながらの天才で、独創的かつ実用性にも富んでいた。ゴンジンがデザインを手がけた狩猟服を王が気に入り、ドルソクは嫉妬や危機を覚える。だがその頃、王室を取り囲んで、いまだ嫡子のない王妃の廃絶を企む陰謀が起こり、その争いにドルソクとゴンジンも巻き込まれていく。
歴史やしきたりを重んじるドルソクと、王室でも新しいデザインでいいじゃないかと、天衣無縫に振る舞うゴンジン。ハン・ソッキュの叩き上げの苦労をしのばせる芝居が素晴らしい。才能に溢れた若手への嫉妬に苦しみながらも、人懐っこいゴンジンが、ドルソクの刺繍の技へ素直に敬意を示す態度に、つい断りきれず仕事に付き合ってしまったり、ゴンジンが貴族に喧嘩を売られていると助け船を出したりする、信頼関係のある良きライバルの時期が楽しい。
ゴンジンは王妃の美しさに一目惚れしていた。もちろん身分違いの叶わぬ恋だ。王は先代王との軋轢によって、王妃にいまだ指一本触れていなかったため、ゴンジンは王妃の美しさをさらに際立たせ、王の気を惹くための衣装を仕立てる。だが貴族の中には自分の娘を王の愛妾にし、子どもを作ることで正妻の座につかせようと企む者もおり、ドルソクは側室のための衣装作りを担当することになる。
本作は悲喜劇である。ゴンジンとドルソクの間の、年齢やタイプの異なる二人の友情や、ゴンジンが憐れな王妃に無私の愛を捧げる、可憐な関係もいい。王妃のために仕立てたチマの大きく広がった衣装が、王宮から世間にまで広がりブームになる、見た目の艶やかさもワクワクする。ゴンジンは男を相手にする妓女たちには、特に冒険心に溢れたデザインをし、カラフルでセクシーな衣装を作る。
これだけ様々な衣装が登場しつつも、どれも韓国の民族衣装の域をはみ出しはしない、応用の範囲であることが麗しい。妓女たちのセクシーな衣装でさえ、可愛らしい上品さを保っているのだ。布を染め上げるシーンの風にそよぐ生地、貴族の上着、男性たちの冠帽も透けているのが、韓国の装束がもつ独特の世界観と美しさを維持している。
衣装の楽しさで高揚するため、悲劇への転調はよけいにつらいが、それでもクライマックスまでのアガリ方は、ぜひ見て楽しんでほしい。マ・ドンソクという人気バイプレイヤー俳優が、官僚の中でいち早くゴンジンのデザインを取り入れ、ファッションショー風になるシーンも笑ってしまう。
text: Yaeko Mana
「尚衣院 サンイウォン」
監督:イ・ウォンソク
撮影:キム・ジヨン
編集:ナム・ナヨン
出演:ハン・ソッキュ/コ・ス/パク・シネ/ユ・ヨンソク
配給:クロックワークス
2015年11月7日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー
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