15 12/22 UPDATE
86年、カリフォルニア州コンプトン。麻薬売人のイージー・E(ジェイソン・ミッチェル)や、ティーンエイジャーながら力のあるリリックを書くアイス・キューブ(オシェア・ジャクソン・Jr)、ドクター・ドレー(コーリー・ホーキンス)、MCレン(オルディス・ホッジ)、DJイェラ(ニール・ブラウン・Jr.)が集まり、伝説のヒップホップグループ「N.W.A.」が結成される。
麻薬の売人であったり、普通に学生として暮らしたりと、それぞれ生活は異なる5人。だが、黒人が路上でたむろしているだけで、警官から威嚇され屈辱的な取り調べを受けるのは日常茶飯事。彼らはその鬱屈を、ラップにより過激な反骨精神を発揮し表現していく。そして発表されたアルバムは、世間に共感と脅威をもって迎えられた。アルバムはヒットし、コンサート会場は満員だが、FBIからは危険視されて、彼らの代表曲「ファック・ザ・ポリス」は歌わないようにと威圧を受ける。
音楽が、言葉が、爆弾テロと同様に脅威と見なされる姿。N.W.A.のメンバーを逮捕するため、警官たちによるコンサート会場での茶番劇など、本当に警官を揶揄した歌詞同様に、手段を辞さない方法には呆気にとられる。
だが、若い美女のグルーピーたちに囲まれ、酒とドラッグ三昧のN.W.A.のメンバーにも、徐々に不協和音が生じ始める。メンバー間のギャラの差異に、フロントマンのイージー・Eと、マネージャーのジェリー(ポール・ジアマッティ)が関与していると気づいたアイス・キューブが脱退。ソロとして人気の出たアイス・キューブとN.W.A.は、ニューアルバムの歌詞で互いをこき下ろすような泥合戦になっていく。優れた才能を持つドクター・ドレーも脱退し、彼らがソロで売れるのに対し、N.W.A.は凋落していく。
事実の映画化とはいえ、登場する人物はまだ存命の者も多い。かなり大きなトラブルを抱えたそれぞれの紆余曲折は、ほとんど大河ドラマを見ているような充足感がある。警察の厄介になる場面も多々あり、よくぞ映画化の許可をそれぞれが出したと感心する。このリアリティは、製作を担当したのが元メンバーのアイス・キューブ、ドクター・ドレー、そしてN.W.A.のフロントマンであり、95年に亡くなったイージー・Eの妻トミカ・ウッズ=ライトだからだろう。
N.W.A.に関する知識がなくとも楽しめる作品である。一介の高校生が、DJやリリックの才能で全米に名を知られることになるという、まさに立身出世のお伽噺。そして幸福な時期を過ぎて、互いの関係に亀裂が入り始める過渡期。だが、分裂したはずのメンバーたちが、こうやって膝を付きあわせ、みんなの過去を映画化した時点で現在もまだ、進行形の物語があるのである。
一時代を築いた、ギャングスタ・ラップという文化の形として、心から興味深い映画である。そして浪花節な人情に訴えてくる事実やストーリーテリングも、構造としてよく出来ているがゆえに、映画として高揚感と心惹かれるものがあるのだ。
text: Yaeko Mana
『ストレイト・アウタ・コンプトン』
監督:F・ゲイリー・グレイ
製作:アイス・キューブ/ドクター・ドレー/マット・アルバレス/トミカ・ウッズ=ライト
出演:コーリー・ホーキンス/オシェア・ジャクソン・Jr./ジェイソン・ミッチェル/オルディス・ホッジ/ニール・ブラウン・Jr.
配給:シンカ、パルコ ユニバーサル映画
© 2015 UNIVERSAL STUDIOS