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ギレルモ・デル・トロ監督によるゴシック・ロマンス。過去に『ヘル・ボーイ』シリーズのようなモンスター娯楽大作や、『パシフィック・リム』も手掛けているが、本作は『パンズ・ラビリンス』の系譜に近く、よりゴシック・ロマンスの美学に満ちた、切ない恋愛の映画となっている。
20世紀初頭、ニューヨークに住むイーディス・カッシング(ミア・ワシコウスカ)は、作家志望の娘。彼女は幽霊をみる能力を持ち、父親との二人暮らしだ。イーディスは眼科医の幼馴染アラン(チャーリー・ハナム)から結婚を申し込まれるが、その頃、イギリスから渡航してきた準男爵の称号を持つ青年、トーマス・シャープ(トム・ヒドルストン)と出会い、恋に落ちる。イーディスは父の死という不幸を迎えるが、トーマスと結婚し、イギリスのシャープ邸で暮らすことになる。だがそこには、トーマスの姉でイーディスに冷たく当たるルシール(ジェシカ・チャスティン)が同居していた。
歴史モノだが、華やかなニューヨークで女性たちが華美なドレスを競い合い、男性は機能的な服へと向かう中で、イギリスから来たトーマスの古風ないでたちは目を引く。トム・ヒドルストンが現れた瞬間、彼の回りにだけゴシックな暗い香りが広がり、特にイーディスの父の葬儀の際、他の男性は白いカラーで統一されているのに、トーマスだけがほとんどカラーを隠し、黒いシルクのスカーフとベストを着用しているのが、青ざめた顔をよりゴシックの色気満載で見せる。
後半は屋根が抜け落ちた、ビクトリア朝時代の朽ちたシャープ邸自体が、このゴシック・ロマンスの主人公となっていく。冬になると血のような真っ赤な粘土がしみだしてくるため、「クリムゾン・ピーク〈真紅の山頂〉」と呼ばれる人里離れた土地。屋根がないため、屋敷内の中央には雪がそぼ降る寒々しさ。蛾がはためく暗い壁、くすんだ絵画、怪しい地下へ至るエレベーター。すべてが美しくもまがまがしい恐ろしさを放ち、さらにイーディスは鮮血が人型となったような、恐ろしい幽霊を見かけるようになる。屋敷にとり憑いたこの女の幽霊は、はたして何者なのか。
ホラーのようだが、物語は男女の三角関係を描いた切なさに貫かれている。初恋や、獲物を愛してしまう男、愛を失う恐怖で錯乱する女といった、愛のどうしようもなさが、少女マンガのようにキュンキュンきてしまう。
それと、ゴシックといえば大仰な機械。本作でもトーマスが粘土掘削機の開発に人生を賭けている。フランケンシュタイン博士が人造人間を作り上げるため、仰々しい研究室を作ったように、この動き出してしまう機械というのも、ゴシック・ミステリの重要な要素だろう。ラストも愛ゆえの切ない変容に泣けてしまう、ロマンティックなゴシック映画である。
text: Yaeko Mana
『クリムゾン・ピーク』
監督:ギレルモ・デル・トロ
製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュニ/ギレルモ・デル・トロ/カラム・グリーン
出演:ミア・ワシコウスカ/ジェシカ・チャステイン/トム・ヒドルストン/チャーリー・ハナム/ジム・ビーバー
配給:東宝東和
© Universal Pictures.