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この映画は、衝撃的な立ち退きシーンから始まる。主人公のデニス・ナッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)は、家が銀行の差し押さえとなり、不動産仲介業者のリック・カーパー(マイケル・シャノン)の指示の下に、長年暮らした家から強制退去させられる。その猶予はたった2分間。貴重品しか持ちだせず、シングルファーザーで幼い息子と、母を連れた無職のデニスはモーテル暮らしとなる。
大規模な金融危機後の、サブプライムローンの実態のエグさ。サブプライムローンとは、普通は審査に通らないような低所得者に、住宅を担保にして、利率の高い住宅ローンで家を貸し出すこと。だが不動産バブルがはじけ、利率が急激に上がったため返済が不可能になり、立ち退きを迫られる人々が溢れた。
本作でも指揮を執るマイケル・シャノンは銃を装備し、武装した保安官が強制退去を実行する。自宅を取りあげられるのは、精神的拠り所を失う恐ろしい出来事だ。そのため、立ち退きに抵抗したり、居座る人もいる。それがよけいに、重装備で突入して撤去を行わざるを得ないという、悪夢のような光景を生む。
だが面白いのは、マイケル・シャノンは本作において悪役に見えないことだ。押しの強さと、強靭な精神力という魅力に加え、彼の論理には矛盾がないからだろう。確かにシャノン演じるカーパーが無情な立ち退きを指示するのだが、うろたえた住人がすがっても「銀行がやってることだ」とにべもない。でもそれは確かに、ローン返済を促す銀行がやっていることで、彼はその担保の不動産の持ち主にすぎない。それゆえにか、デニスは自分を追い出した張本人であるカーパーに気骨を認められ、彼の下で働くことになる。そして、強制退去をさせる非情さや巧さという意外な能力を発揮していく。
カーパーは政府や銀行へ怒りを抱いている男だ。だから、銀行の収益から不動産を転売した利益を正当に奪って、自分の富にしようとする。「家」とは「箱」にすぎず、家族との思い出など無意味だと考え、カーパーはひたすら不動産を転売しているだけだ。だがそのために住宅を失った人々が溢れるのだが、それを保護するのは政府の仕事だろうという論理は、感情を一切排すればまかり通る。ある種のダークヒーローといえるだろう。
デニスもカーパーの思想に感化されていくのだが、身近に「家とは家族と過ごす大事な場所」という良心を持った母がおり、彼は理想と感情論の間で引き裂かれる。ラストは言葉で語りすぎないだけに、心に食い込むものがある。ダークヒーローも論理に無理をきたして矛盾が生まれたとたん、小さな良心と救済が立ちはだかる。その阻むものの小ささゆえに、巨大な夢の崩壊はやるせなさを生む。
text: Yaeko Mana
『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』
監督:ラミン・バーラニ
脚本:ラミン・バーラニ/アミール・ナデリ
出演:アンドリュー・ガーフィールド/マイケル・シャノン/ローラ・ダーン
配給:キノフィルムズ
2016年1月30日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開!
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